それから先輩は、目を見張る程の速度で快方へ向かい、リハビリも頑張っているようだという旨が、日々佳代さんからメールで届いた。
 日報のようなお堅い文章に笑いつつ、姉と二人でそれを呼んではハイタッチ。
 そんな佳代さんからのメールによれば、辛く厳しいはずの日々の中であっても、先輩は常に笑顔で明るく過ごしているとのこと。
 面会に行けば笑って出迎え、これまでより饒舌に日々のことを話し、時には俺のことにも触れているらしい。
 しかしその内容たるや、惚気話のようなものらしく……勘弁して欲しいわ、と括られたメールに、俺の方が勘弁して欲しい気分になった。
 遠慮がなくなったというか、タガが外れたというか――何にせよ、その明るさこそが先輩本来の性格なのだろう。
 人と話す機会がなかったからこそ、初めて出会った時のようなあの感じになってしまうのであって、仲良くなるきっかけや相手さえいれば、明るく素直で可愛らしい、とても接しやすい相手となる。




 そんなある日は、十月の中頃。
 佳代さんから、短い文面でのメールが届いた。

『退院の日取りが正式に決まりました。三日後の土曜日です』

 隣でテレビを見ていた姉にも、その画面を見せる。
 パッと明るく笑って掲げられる手に、俺も同じように手を伸ばして強く打ち付けた。

「やったね、真琴」

「うん。ほんと良かった」

「毎日見舞に行った甲斐があったわね」

「……うん、ほんと」

 良かった。良かった。
 それしか言えなくなるくらいに、俺は胸が一杯になった。

「麻衣の言ってた通り、あんたって泣き虫さんだったんだね。私の前では、ちょっと背伸びして大人びた高校生になってたのに」

「そりゃ、だって……あぁ、よかった……ほんとによかった……」

 泣いて泣いて、とにかく泣いて。
 みっともなく鼻水まで流しながら、俺はそのメールを何度も読んだ。

 退院が決まった。正式に決まったのだ。
 そう書いてある。書かれてある。

 こんなに嬉しいことはない。

「退院だってさ、退院。お祝い、あの子でも出来ることを考えないとね」

「うん……そうだね。何をしたら喜んでくれるかな」

「今のあの子なら『真琴くんのしてくれることなら何でも』とか言って惚気そうだけど」

「あ、はは……それなら尚更、下手なことは出来ないな」

 先輩なら、確かにそう言うかもしれない。
 言ってくれたら嬉しいなって、そう思う。

 何をしようか。
 どこかに行こうか。

 俺は、姉とそんなことをあれこれ話し合いながら、随分と時間が経った後に、佳代さんに返信のメールを書いた。