締めの挨拶も姉の静止も聞かないまま、俺は校内を彷徨っていた。
 辿り着いたのは、なぜか旧理科室だった。

 全てここから始まった。

 けれど、思えばあの日も、ただ不貞腐れて、たまたまここに流れ着いただけだった。
 こんな気持ちのやつ、最初から関わるべきではなかった。
 先輩の為にとやって来たことはその実、先輩を余計に苦しめるだけの結果を生んだ。

 友達……友達…………。

 俺は――先輩の友達には、相応しくない。

 何となく字を書いて、何となく続けて、何となく知ってしまったから何となく友達になって……。
 そんな浮ついた考えから始まった人間に、その人のことを幸せにしようなんて、無理なことだったんだ。

「終わった……最悪だ……」

 頭が痛い。
 足が痛い。
 心が痛い。

 吐きそうな気分だ。

 午後はやることもないから、このままここで寝て過ごそう。
 そう思って俺は、旧理科室の扉に手を掛けた。

(……いや、鍵がないと開かないか)

 職員室に行ってこっそり借りてこようか、と考えながらも滑る指。
 引っかかった勢いのまま、扉は開いた。

 そこに、

「あっ……」

 一冊の、ノートを見つけた。
 気兼ねなく話すようになってから久しく見ていなかった、あのノートだ。
 必要なくなった筈のそれが、確かに置かれていた。
 二人でやりたいことリストを作ってからは、ここに置かれもしなくなっていたのに。

「なんで……」

 疑問に思いながらも、俺はノートを開いた。
 その、最後のページに――



『真琴くんの気持ち理解したい
 やりたいことリストの一つ』



 殴り書いたような字で、それだけ綴られていた。
 嫌な心地が前進を駆け巡る。

「いた、マコ…!」

 勢いよく開かれた扉から、悟志が叫ぶ。
 酷く息を切らして、慌てた様子だ。

「悪い悟志、俺――」

「それより今すぐグラウンド来い…! 参加しないって言ってたあの先輩、リレーの列に並んでるぞ…!」

「…………は?」