何かが肩を、頬を撫でた。
 ふわりとしていて、それでいて硬い何か。
 薄く目を開けてゆくと、それがカーテンであったことが分かった。

「なん、で……」

 窓は閉まっていたはずだ。
 カーテンがかかっていたから閉まっているものだと、思い込んでいたのだろうか。

「ん、ん……」

 目を擦りながら、身体を起こす。
 ポケットからスマホを取り出して、時刻を確認する。
 十七時半。そろそろ、部活も終わる頃合いだ。

「やば、寝すぎた……」

 起き抜けの身体は頼りないが、何とか立ち上がり、荷物を肩に掛け直す。

「ふぁー、ぁ……」

 大きく伸びをして、身体と頭の覚醒を促した。
 そうしてスッとクリアになったところで、俺は教室を出ようと身を翻した。

「ん……?」

 そこに、何かを見つけた。
 入口扉のすぐ横に、教室にあるものと同じ勉強机、その上に一冊のノートが置いてあった。

 あんなものあったか? という疑問にも、答えは得られない。
 この教室に入った時、すぐ傍らの方に目を向けた記憶がないからだ。

 空き教室に、一冊のノート。
 そういう漫画やアニメだと、これが呪いか何かのノートで、そこから物語が始まったりするものだが――流石に、そんな訳はないだろう。
 しかして警戒しつつ、俺はそのノートの方へと近付いた。

「交換、日記……?」

 表紙には、その四文字だけが、小さく書かれていた。
 他には名前も何もないが、女子生徒だろうかと思う、綺麗な字だった。どこか見覚えがある気さえするような、綺麗な字だ。
 ここで授業をやっていた頃か、或いは何かの部活に割り当てられていた時にでも使われていたものか。
 そんなところだろうと思う。

 しかし同時に、

「それにしては綺麗、というか新しすぎる……」

 使われていたのだろうか、と推測するなら、交換日記などと書かれていることからも、開いては書き、開いては書きと繰り返されてきた筈だ。が、これにはそんな形跡もない。
 折り目も開き癖も付いていない、真っ新なノートに見える。

 まさか、本当に幽霊の……?

「――なわけないか」

 交換日記をしたがる幽霊?
 そんなものいる筈もない。
 いたところで、別に怖い存在とも思えない。

 馬鹿馬鹿しい。そう飲み込んで、俺は何の気なしにノートを開いた。
 真っ新なノートなら、誰が書き込んでいるものでもないだろう。そう思ってのことだった。

「……は?」

 表紙を開いた、一ページ目――そこには、文字が書いてあった。
 たったの一行。短い一行。




『お友達になってくれませんか?』