その日だけは、いつもの分かれ道では分かれずに、俺は先輩の手を握ったまま、家まで送り届けた。
 お母さんは夜勤の仕事らしく、家にはいなくて――手を離してしまうのは惜しかったけれど、また明日にも会えるからと、笑い合って別れた。

 家に帰ると、姉が出迎えた。
 何か言いたげなその表情に、俺の方から全て白状した。

 姉は、先輩の話したそれら全てを、知っていた。
 知った上で、俺に任せていたらしい。

 どうして、とは聞かなかった。
 聞かなくても分かったから。

 先輩が欲しがったのは『友達』だ。姉の人柄なら、教師という立場さえ捨てれば親しくもなれただろうけれど、十個も歳が違うと、それを抜いて考えても簡単にはいかなかったらしい。
 歳の近い、それこそ俺のような人間が――友達になるなら弟ならどうだろうと思っていた、と話していたのは、嘘でも冗談でもなく、そういう事情からの本音だったのだ。

 全て知っていたのだと分かったからこそ、

――麻衣のこと、あんたに任せて正解だったわ――

 そう言って笑いながらも涙を浮かべる姉に、俺の決意はより一層かたいものになった。