ポケットから取り出したスマホを開き、時刻を確認し、閉じてポケットへしまって――そんなことを、もう何度も繰り返してる。
 相手が誰とか関係なく、人と待ち合わせて帰るなんてこと自体もう何年ぶりだという話で、変に緊張してしまう。

 昔はどうやって時間を潰して待ってたっけ。
 どんな心持ちだったっけ。

 そんなことをついぐるぐる考えてしまうから、意味もなく何度もスマホを確認する。
 ちらちらとそこらに見えていた、誰かと待ち合わせていたらしい他の子たちは、早くも合流してさっさと帰り始めている。
 ぽつりぽつりと見えていたそれらは、次第に数を減らしていって――気が付けば、校門から出てそのまま帰ってゆく人たち以外、立って待っているのは俺だけになっていた。

 先輩、まだかな。

(……まだかな?)

 どういう気持ちで、俺はそんなことを思ったのだろう。
 待ちくたびれたから?
 周りに誰もいなくなったから?

 それとも――

「お、またせ、いたしました……」

 すぐ傍らから届いた小さな声に、俺はそちらを振り返る。
 思いがけず目が合ってしまった瞬間、逸らし、数歩退くのは、相良先輩だった。
 急に振り向いて、驚かせてしまっただろうか。

「お疲れ様です、先輩」

「お疲れ様、です、榎さん……お待たせしてしまいました」

「全然。行きましょうか」

 背中を預けていた壁面から離れ、先輩に向き直る。
 意外にも高身長な先輩は、姉を隣に連れている時と、目線があまり変わらない。

「え、っと……あの、ほ、本当に、良いのでしょうか……?」

「良いって、一緒に帰るのが?」

 先輩は小さく頷いた。

「私なんかが、榎さんの隣を歩いて……」

「なんかって――あれ、友達なんですよね、一応? 俺ら」

「は、はい…! あっ、えと、そ、そうだと、嬉しいです……」

「嬉しいって……」

 文面から感じる性格とは、本当にかけ離れている。
 日記の中だと、ある程度はっきりとした性格のように思っていたけれど――これは、俺の方が選択を間違えてしまっただろうか。

 ……いや。

「変に気と遣わなくても良いですからね。友達って、そういうもんだし」

「友、達……」

 先輩はその言葉を、まるで噛み締めるかのように小さく復唱した。

「放課後なんて、何となく時間が合うから一緒に帰るってだけのことです。気の利いた言葉とか、下手な話題作りとか、そういうのって他人行儀でしょ?」

「……はい」

 頷きながら答えると、先輩はゆっくりと視線を上げた。
 そうして俺に視線を合わせて、

「か、帰りましょうか……榎さん」

 消え入りそうなくらい小さく言って、またすぐに視線は逸らされてしまった。
 今は、それが彼女の精一杯の距離なのだ。
 でも――俺も、今はそれくらいが心地良い。
 初めからグイグイ来られるような人は苦手だし、俺自身、まだ緊張したままだし。

(……苦手、か)

 彼女の目に、俺はどう写ってるんだろうか。
 そう写っていたり、するんだろうか。
 願ってもない、頼んでもいない下校を、強いられているような心地になっていたりとか……。