波の音が聞こえる
海の匂いが、春の風に乗って漂ってくる
私は、卒業証書を抱えたまま、静かに砂浜へ足を踏み入れた
——ここに来るのは、久しぶりだ
帆向くんと最後に訪れた海
彼がいなくなったあとも、何度も足を運んだ場所
だけど、今日は特別だった
今日という日を、ここで迎えたかったから
静かに、波打ち際まで歩く
海はどこまでも青くて、空は透き通るような色をしていた
まるで、帆向くんがそこにいるみたいに——優しい光に包まれている
「……帆向くん」
風に声が溶けていく
「私、卒業したよ」
少しだけ微笑んで、私は海を見つめる
「高校に入学したとき、正直、自分がどうなるのかなんて全然考えてなかった」
「ただ毎日を過ごして、それなりに楽しくて、それなりに平凡で——そんな日々を続けるんだろうなって思ってた」
「でも、帆向くんと出会って、全部が変わった!」
「好きな人がいるって、こんなにも世界が違って見えるんだって、初めて知った!」
潮風が、そっと私の髪を揺らす
まるで、帆向くんが「うん」と頷いているみたいだった
「私はね……これから、ちゃんと生きていくよ!」
言葉を紡ぐたびに、胸の奥が少しずつ軽くなっていく気がした
「帆向くんと過ごした時間は、私の中でずっと生きてる」
「だから、もう寂しくない」
「……本当は、まだちょっと寂しいけど」
「でも、それでも私は歩いていく」
潮風が頬をなでる
どこか遠くから、帆向くんの笑い声が聞こえたような気がした
——「ちゃんと生きろよ、心和」
「……うん。」
小さく呟いて、私はそっと瞳を閉じる
波が静かに打ち寄せる音がする
どこまでも続く青い海が広がる
——帆向くん、ありがとう
——私、ちゃんと生きていくよ
春の風が吹く
それはまるで、旅立ちを祝福するように
——優しく、優しく吹き抜けていった
穏やかな波の音が、静かに耳に届く
私はもう一度、ゆっくりと海を見つめた
この場所に来るたび、心が少し軽くなる気がする
まるで帆向くんが、どこかで見守ってくれているような——そんな気がして
「じゃあね、帆向くん」
そう小さく呟いて、私は踵を返した
もう、振り向かない
だって、私はもう前を向いて歩いていくって決めたから
砂浜を歩きながら、ポケットの中の卒業証書を握りしめる
これからの私は、どこへ向かうんだろう
何を目指して、何を叶えて、どんな日々を歩いていくんだろう
答えはまだ分からない
だけど——
「……大丈夫」
帆向くんとの思い出がある限り、私は迷わない
どんなに辛いことがあっても、きっと乗り越えていける
だって、帆向くんが私に教えてくれた。
「人生は、思ってるよりずっと短くて、だけど想像よりもずっと美しい」って。
だから私は生きる
涙も、笑顔も、全部抱えて——精一杯、生きていく
海沿いの道を歩きながら、携帯を取り出す
花緋ちゃんからメッセージが来ていた
『卒業おめでとう!みんなで集まろうって話してるんだけど、心和はどう?』
私は小さく微笑んで、指を動かす
『行くよ!みんなに会いたい』
送信ボタンを押した瞬間、海風がそっと吹いた
「ありがとう、帆向くん」
私の心の中で、彼が微笑んだ気がした
——そして、私は、前を向いて歩き出した
——完
海の匂いが、春の風に乗って漂ってくる
私は、卒業証書を抱えたまま、静かに砂浜へ足を踏み入れた
——ここに来るのは、久しぶりだ
帆向くんと最後に訪れた海
彼がいなくなったあとも、何度も足を運んだ場所
だけど、今日は特別だった
今日という日を、ここで迎えたかったから
静かに、波打ち際まで歩く
海はどこまでも青くて、空は透き通るような色をしていた
まるで、帆向くんがそこにいるみたいに——優しい光に包まれている
「……帆向くん」
風に声が溶けていく
「私、卒業したよ」
少しだけ微笑んで、私は海を見つめる
「高校に入学したとき、正直、自分がどうなるのかなんて全然考えてなかった」
「ただ毎日を過ごして、それなりに楽しくて、それなりに平凡で——そんな日々を続けるんだろうなって思ってた」
「でも、帆向くんと出会って、全部が変わった!」
「好きな人がいるって、こんなにも世界が違って見えるんだって、初めて知った!」
潮風が、そっと私の髪を揺らす
まるで、帆向くんが「うん」と頷いているみたいだった
「私はね……これから、ちゃんと生きていくよ!」
言葉を紡ぐたびに、胸の奥が少しずつ軽くなっていく気がした
「帆向くんと過ごした時間は、私の中でずっと生きてる」
「だから、もう寂しくない」
「……本当は、まだちょっと寂しいけど」
「でも、それでも私は歩いていく」
潮風が頬をなでる
どこか遠くから、帆向くんの笑い声が聞こえたような気がした
——「ちゃんと生きろよ、心和」
「……うん。」
小さく呟いて、私はそっと瞳を閉じる
波が静かに打ち寄せる音がする
どこまでも続く青い海が広がる
——帆向くん、ありがとう
——私、ちゃんと生きていくよ
春の風が吹く
それはまるで、旅立ちを祝福するように
——優しく、優しく吹き抜けていった
穏やかな波の音が、静かに耳に届く
私はもう一度、ゆっくりと海を見つめた
この場所に来るたび、心が少し軽くなる気がする
まるで帆向くんが、どこかで見守ってくれているような——そんな気がして
「じゃあね、帆向くん」
そう小さく呟いて、私は踵を返した
もう、振り向かない
だって、私はもう前を向いて歩いていくって決めたから
砂浜を歩きながら、ポケットの中の卒業証書を握りしめる
これからの私は、どこへ向かうんだろう
何を目指して、何を叶えて、どんな日々を歩いていくんだろう
答えはまだ分からない
だけど——
「……大丈夫」
帆向くんとの思い出がある限り、私は迷わない
どんなに辛いことがあっても、きっと乗り越えていける
だって、帆向くんが私に教えてくれた。
「人生は、思ってるよりずっと短くて、だけど想像よりもずっと美しい」って。
だから私は生きる
涙も、笑顔も、全部抱えて——精一杯、生きていく
海沿いの道を歩きながら、携帯を取り出す
花緋ちゃんからメッセージが来ていた
『卒業おめでとう!みんなで集まろうって話してるんだけど、心和はどう?』
私は小さく微笑んで、指を動かす
『行くよ!みんなに会いたい』
送信ボタンを押した瞬間、海風がそっと吹いた
「ありがとう、帆向くん」
私の心の中で、彼が微笑んだ気がした
——そして、私は、前を向いて歩き出した
——完



