帆向くんのお葬式が終わってから、私はずっと空っぽだった

学校に行っても、みんなと話しても、笑っても——どこかで「帆向くんがいない」という現実が胸を締めつける

ぽっかりと穴が開いたようで、何をしても埋まらない

でも、それでも——

「……行こう」

私はそっと、帆向くんの手紙をバッグにしまって、玄関のドアを開けた

今日は少しだけ遠くまで歩いてみよう

そう思ったのは、風の匂いが変わったからだった

——春の匂い

帆向くんが好きだった、あの海へ行こう

***

駅を降りて、潮風の香る道を歩く

青く広がる海が見えて、私はそっと足を止めた

「……来ちゃった」

帆向くんと最後に一緒に来た場所

もう彼はいないのに、まるで隣を歩いているような気がして

「お前、足元ちゃんと見ろよ」

——なんて声が聞こえそうで、くすっと笑ってしまう

帆向くんといた時間は、全部嘘みたいに遠くなったのに

それでも確かに、私の中で生き続けている

——それなら、きっと大丈夫

——私はちゃんと前を向ける



「帆向くん」

波打ち際に立って、私は小さく呟く

「……私ね、やっぱり生きていくよ」

帆向くんがくれた言葉を、愛を、大切にして

これからも、ちゃんと歩いていく

涙はもう流れなかった

ただ、静かに笑えた

春の風がそっと頬を撫でた

まるで帆向くんが「そうだな」って微笑んでいるみたいに、優しく——

波が静かに寄せては返す

遠くでカモメの声が聞こえて、潮風がふわりと髪を揺らした

帆向くんと過ごした日々は、もう戻らない

だけど、私はその記憶とともに生きていく

「……帰ろう」

静かに呟いて、私は踵を返した

帆向くんとの思い出が詰まったこの海に、また来る日があるだろう

そのときはきっと、もっと強くなっていたい