便箋を広げると、そこには見慣れた帆向くんの字が並んでいた

少しだけ崩れた文字

いつもノートの端に落書きみたいに書かれていた、彼の字

だけど、これはもう——二度と増えることのない言葉

**「心和へ」**

名前を呼ばれただけで、涙が溢れそうになった

——でも、ちゃんと読まなきゃ。

彼の最後の言葉を、ちゃんと受け取らなきゃ

震える指先で便箋を押さえながら、私はゆっくりと続きを読んだ

---

**「これを読んでるってことは、もう俺はそっちにはいないんだよな。」**

**「ごめんな、こんな形でしか伝えられなくて。」**

**「本当はもっと、たくさん話したかった。」**

**「もっと一緒にいたかった。」**

一行ずつ、胸が締めつけられる

彼はこんなにも、私と一緒にいることを望んでくれていたのに——

**「お前が泣いてる顔、俺はあんまり好きじゃないんだ。」**

**「だから、無理にとは言わないけど、笑えるときは笑ってほしい。」**

**「お前の笑った顔が、俺は何よりも好きだったから。」**

涙がこぼれて、便箋の端が滲んでいく

ダメだよ、こんなの

笑えるわけないよ

**「心和。」**

**「俺はお前を愛してる。」**

**「たぶん、この先どれだけ時が経っても、その気持ちは変わらない。」**

**「俺の人生は短かったけど、最後の時間をお前と過ごせて、俺は本当に幸せだったよ。」**

**「ありがとう。」**

**「生まれてきてくれて、俺と出会ってくれて、本当にありがとう。」**

最後の一文を読み終えた瞬間、涙が止めどなく溢れた

「……バカ……」

声にならない声がこぼれる

どうして...?

どうして、そんな言葉を残していくの?

「……ありがとう、なんて……こっちのセリフなのに……」

帆向くんの手紙を胸に抱きしめる

かすかに残る紙の匂いが、彼の面影と重なった

彼がいた証が、確かにここにある

——もう、いないのに

——もう、声を聞くこともできないのに

なのに、まだすぐ隣にいるような気がして

「……ずるいよ、帆向くん。」

私は泣きながら、小さく呟いた

静かな部屋の中、帆向くんの言葉だけが優しく響いていた——