静寂に包まれた空間で、微かに流れる読経の声だけが響いていた

黒い喪服に身を包んだ人々が、次々と祭壇の前に進み、白い菊の花を手向けていく

祭壇には、帆向くんの遺影が飾られていた

——優しい笑顔のままの帆向くん

「……嘘みたいだよね」

隣に立つ優鞠ちゃんが、小さな声で呟いた

「ほんとに、いなくなっちゃうなんて……」

誰もが涙を堪えようとしているのに、こらえきれずに肩を震わせていた

叶翔くんはずっと無言のまま拳を握りしめている

花緋ちゃんは、泣きすぎて目が真っ赤だった

純鈴ちゃんと心寧ちゃんも、ただ俯いて手を握り合っていた

私は——

私は、どうすればいいのか分からなかった

現実感がない

目の前の光景が、まるで遠くの世界で起きていることのように感じる

「心和……」

母が、そっと私の背中をさすった

「最後に、お別れを言っておいで」

——お別れ

私は、足を動かして祭壇へと向かった

帆向くんの写真を見つめる

あの声も、温もりも、もう二度と触れられない

「……帆向くん」

声を出した瞬間、胸の奥が張り裂けそうになった

「どうして……どうしていなくなっちゃうの……?」

返事はない

それでも、涙で滲んだ視界の向こうで、帆向くんの笑顔が優しく私を見つめているような気がした

「……ずっと、一緒にいたかったよ……」

震える手で白い菊をそっと置く

「大好きだよ」

最後の言葉を、やっとの思いで絞り出した

涙が頬を伝い落ちる

さよならを言うのが、こんなに苦しいなんて——

でも、言わなきゃいけないんだよね

帆向くん、今までありがとう

ずっと、ずっと、大好きだよ