病室の窓の外には、やわらかな春の風が吹いていた

新しい季節の訪れを告げるように、桜の花びらが静かに舞い落ちる

だけど、その美しい景色とは裏腹に——

「……帆向くん？」

私は震える声で彼の名を呼んだ

ベッドに横たわる彼の顔は、まるで眠っているように穏やかだった

でも、呼吸は浅く、今にも消えてしまいそうなほど弱々しい

「先生！先生を呼んで！」

誰かの声が響いた

看護師さんたちが慌ただしく駆け寄り、医者が彼の状態を確認する

「血圧低下、脈拍微弱——すぐに処置を！」

「帆向くん……！」

私は彼の手を握りしめる

こんなに冷たい——まるで、もう彼の体温が少しずつ消えていくみたいに。

「心和……」

かすれた声が、耳元で聞こえた

「っ……帆向くん！」

彼の瞳が、うっすらと開く

色素の薄いその瞳が、まっすぐに私を映し出していた

「大丈夫だよ……怖がらなくていい」

「怖いよ……っ！」

涙が止まらなかった

「置いていかないでよ……！まだ、いっぱい話したいことがあるのに……！」

彼の指が、そっと私の頬に触れる

「心和がいてくれたから、俺……すごく幸せだったよ」

「やだ……そんなの、やだよ……！」

彼の指先が、ゆっくりと力を失っていく

「先生、血圧が……！」

「すぐに処置を——！」

慌ただしい声が響く中で、彼の目がふっと閉じそうになる

「帆向くん！！」

私は必死に彼の手を握りしめた

「行かないで……！」

彼は、かすかに微笑んだ気がした

——桜の花びらが、病室の窓からひとひら舞い落ちる

まるで、儚く散る光のように——