病院の廊下はいつもと変わらず静かで、消毒液の匂いがかすかに漂っていた

私は叶翔くんと一緒に、帆向くんの病室の前で立ち止まる

扉の向こうには、きっと彼がいる

……だけど、ちゃんと笑って会えるかな

余命を告げられてからの毎日は、残酷なほどに時間が進んでいた

「大丈夫か?」

叶翔くんが小さく問いかける

私はこくんと頷いた

——大丈夫、ちゃんと顔を見て、伝えなきゃ

ゆっくりと扉を開ける

「……心和」

ベッドの上で、帆向くんがこちらを見ていた

少し痩せたように見えるけれど、彼の瞳はいつものままだった

「帆向くん……」

「来てくれて、ありがとう」

かすかに微笑む彼を見て、私は胸がぎゅっと締めつけられる

「当然だよ、約束したでしょ? ずっとそばにいるって」

そう言いながら、ベッドの横の椅子に座る

「……終業式だったんだよ」

「そっか……もうそんな時期か」

帆向くんは、少しだけ遠くを見つめるように呟いた

「あと少しで、進級だね」

「うん」

「心和は、3年生か……」

「……ねぇ、来年も、一緒にいられるかな?」

私は、思わずそう聞いてしまった

彼は少し驚いたように目を丸くした後、そっと私の手を握った

「ずっと、一緒にいたい」

その言葉が、涙になって零れそうだった

「俺も……心和と、もっとたくさんの時間を過ごしたい」

「うん……」

私たちは、何も言わずに手を握りしめたまま、静かに時間を過ごした

——どうか、この時間が少しでも長く続きますように