しばらくの間、私たちは何も話さずに海を眺めていた

波の音が静かに響き、遠くでカモメの鳴き声が聞こえる

帆向くんの手は、少し冷たかった。

「……寒くない?」

そう聞くと、彼はゆっくり首を振った

「心和がそばにいるから、大丈夫」

そんな言葉をさらっと言うから、胸がぎゅっと締めつけられる

「……嘘つき」

「え?」

「本当は寒いくせに」

私はそっと、自分のマフラーを外して、彼の首に巻いた

「ちょっ……お前のほうが寒くなるだろ」

「私は平気。帆向くんのほうが体冷やしちゃダメなんだから」

「……ありがとう」

彼は少し照れたように笑って、マフラーにそっと触れる

「ねぇ、帆向くん」

「ん?」

「また、一緒に来ようね」

彼の目が、一瞬揺れた

「……」

私は気づいてる

もう、そんな約束をすることが難しいってことも

それでも——

「私、信じてるよ」

「……心和」

「だって、帆向くんは嘘つかない人だから」

「……そっか」

帆向くんは小さく笑って、私の頬にそっと手を添えた

「お前、本当に強くなったよな」

「……そうかな」

「うん。前の心和なら、もっと泣いてただろ」

「……泣かないわけじゃないよ。でも、今はまだ、泣きたくないの」

「なんで?」

「だって、今は幸せだから」

そう言うと、帆向くんは少し驚いた顔をして、それから優しく微笑んだ

「……俺も」

波が静かに寄せては返す

「……好きだよ、心和」

「私も、帆向くんが好き」

そう言った瞬間、彼はそっと顔を近づけた

冷たい風が吹く中、唇が触れ合う

柔らかくて、温かくて——切なくて

「……絶対、忘れないから」

「うん……」

涙がこぼれそうになるのをこらえながら、私は強く彼の手を握った

遠く、太陽がゆっくりと沈んでいく

——まるで、この時間が永遠に続くことを願うかのように