デート当日、冬の冷たい空気が肌を刺すようだった

それでも、太陽の光は優しく、雲ひとつない青空が広がっていた

「……寒くない?」

「大丈夫」

帆向くんは、私の隣で微笑んでいた

病院の制服ではなく、ちゃんとした私服を着ている彼を見るのは久しぶりで、なんだかそれだけで胸がいっぱいになる。

「久しぶりだな、こうやって二人で歩くの」

「うん……」

私は彼の隣を歩きながら、ぎゅっと手を握った

「ちゃんとつかまっててよ。転んだら危ないから」

「心和が支えてくれるなら、どこまでも歩けそうだな」

「……もう、無理しないでよ」

「本当のこと言ったのに?」

帆向くんはいたずらっぽく笑った

——しばらくして、目の前に広がったのは、どこまでも続く青い海

波の音が静かに響き、潮風が心地よく頬を撫でる

「……綺麗」

「そうだな」

帆向くんはゆっくりと砂浜に歩を進める

私は慌てて彼の腕を支えながら、一緒に歩いた

「ここ、覚えてる?」

「忘れるわけないよ」

あの日——まだ何も知らなかった頃

この海で、私たちは初めて本音をぶつけ合った

「また、ここに来れるなんて思わなかった」

「私も……」

二人で並んで、海を見つめる

彼はポケットから小さな貝殻を取り出し、私の手のひらにそっと乗せた

「これは?」

「この間、病院の人が散歩で拾ってきたのを分けてもらったんだ」

「ふふ、そんなのもらえるんだ?」

「なんか、見た瞬間に思ったんだ。心和にあげたいなって」

帆向くんは、少し照れたように笑った

「おそろいにしよう。俺も持ってるから」

「……うん」

私は貝殻をぎゅっと握りしめた

——そのとき。

「……っ」

帆向くんの身体が大きく揺らいだ

「帆向くん!?」

慌てて支えると、彼の顔は真っ青になっていた

「ごめん……ちょっと、眩暈が……」

「ダメだよ、無理しちゃ!」

「大丈夫……少し、座ろうか」

私たちは近くのベンチに腰を下ろした

帆向くんの手を握ったまま、私は祈るような気持ちで彼を見つめる

「もう少し……このまま、ここにいたい」

「うん……」

波の音が、優しく響いていた