それから数日が経った

病院の廊下を歩くたびに、心が重くなる

この時間が少しずつ削られていくのが怖くて、でも、帆向くんの前では涙を見せないと決めた

「心和」

病室に入ると、帆向くんはベッドの上で本を読んでいた

私の姿を見つけると、いつものように少しだけ笑う

「調子はどう?」

「うん、まぁまぁかな」

彼は冗談めかして肩をすくめる

——そんなの嘘だ。

顔色が悪いのも、少し痩せたのも気づいてる

でも、それを指摘したら、きっと帆向くんはまた「大丈夫」って言うから

「今日はね、話したいことがあるんだ」

「……なに?」

帆向くんは、本を閉じて私をまっすぐに見つめた

「俺、最後に一つだけ、願いがある」

「願い……?」

「うん」

彼は、少しだけ困ったように笑う

「……もう一度、デートしたい」

「デート?」

「そう、ちゃんとしたデート。病院の外に出て、心和と普通に過ごしたい」

「でも……そんなの、先生が——」

「先生にはもう相談した」

「え?」

「外出許可、もらえたんだ。たった一日だけだけど」

私は思わず息をのんだ

「そんな……無理しなくても……」

「無理なんかじゃない。俺が、どうしても行きたいんだ」

帆向くんの声は、いつになく真剣だった

「心和と、思い出を作りたい」

「……」

「だから……いい?」

涙が出そうになるのをこらえて、私は力強く頷いた

「……うん、行こう。絶対に」

帆向くんは嬉しそうに微笑み、私の手をそっと握った

「ありがとう」

こうして、私たちの「最後のデート」の約束が交わされた——