病室の扉をそっと開けると、帆向くんはベッドに腰掛けたまま、窓の外を見つめていた

夕焼けが差し込むその横顔は、どこか儚げで、それでも変わらず私の知っている彼だった

「……心和」

ゆっくりと振り向いた帆向くんの瞳が、まっすぐに私を捉える

私の中に押し込めていた感情が、ぐらりと揺らいだ

——泣いちゃダメ。

そう思うのに、彼の表情を見た瞬間、目頭が熱くなった

「……聞いた?」

帆向くんの声は静かで、まるで他人事のように穏やかだった

「……うん」

私は、かすれそうな声で答えた

それ以上、何も言えなかった

「そっか」

帆向くんは、小さく笑った

その笑顔が、いつもと変わらなくて——逆に、苦しくなった

「……なんで笑うの?」

「心和が泣きそうな顔してるから」

「泣いて、ないよ」

そう言った瞬間、頬をつうっと涙が伝った

「……嘘つき」

帆向くんは、苦笑しながら私の涙を指でそっと拭った

「ごめんな、こんなことになって」

「謝らないで……!」

私は、思わず声を震わせた

「帆向くんのせいじゃない……! そんなの、分かってるのに……!」

嗚咽をこらえながら言葉を紡ぐ

「私、何もできない……」

「そんなことない」

帆向くんは、優しく私の手を握った

「こうして、そばにいてくれるだけで、十分だよ」

「……でも」

「心和」

帆向くんの瞳が、真っ直ぐ私を捉えた

「俺……残された時間で、ちゃんと伝えたいことがあるんだ」

「……伝えたいこと?」

「うん」

帆向くんは、少しだけ視線を落とし、それから私を見つめ直した

「俺は……最後まで、お前と一緒にいたい」

「……!」

「だから、泣かないで」

——そんなの、無理だよ

でも、帆向くんがそう言うなら、私は……

私は、震える唇を噛みしめ、涙を拭った

「……分かった」

「約束、な?」

帆向くんは、小さく微笑んで私の指を優しく絡めた

夕焼けの中で、二人の影が寄り添うように重なっていた——