バレンタイン当日、私は病院へ向かう足取りがいつもより少しだけ緊張していた

——ちゃんと喜んでくれるかな?

手には、昨日優鞠ちゃんと一緒に選んだブックカバーと、心を込めて作ったチョコレート

きれいにラッピングされたそれを見つめると、ドキドキがさらに加速する

病室のドアをノックし、中へ入ると、帆向くんはベッドに腰掛け、本を読んでいた

「お、来たな」

顔を上げて、少し驚いたように微笑む帆向くん

「うん、来たよ」

私はそっとドアを閉め、彼のそばへ歩み寄る

「何読んでるの?」

「ん? ちょっと難しそうなやつ。退屈しのぎにいいかなって思って」

帆向くんが手にしていた本のタイトルを見てみると、確かに分厚くて難しそうな内容だった

「さすがだね……」

私は苦笑しつつ、少しだけ呼吸を整える

「ねえ、帆向くん」

「ん?」

「今日はバレンタインだから……はい、これ」

私はチョコとプレゼントを差し出した

「お、バレンタイン……!」

帆向くんの目が少し大きくなる

「俺、こういうのもらうの初めてかも」

「え、本当?」

「うん。だから、ちょっと嬉しい」

帆向くんは照れたように笑いながら、そっとラッピングをほどいた

まずはチョコレートの箱を開ける

「手作り?」

「うん。頑張ったんだけど……口に合うといいな」

「めちゃくちゃ楽しみ。後でじっくり食べる」

優しく微笑む彼を見て、少しほっとする

そして次に、もう一つのプレゼント——ブックカバーを開いた瞬間、帆向くんの目が少し見開かれた

「……これ」

「この前、病院で本をよく読んでるって言ってたから。少しでも気に入ってもらえたらなって……」

「……すげぇ、これ、俺好み」

帆向くんはブックカバーを丁寧に手のひらで撫でながら、私を見つめた

「ありがとう、心和」

その言葉が、真っ直ぐに私の胸に届く

「ふふ……よかった!」

私は思わず微笑んだ

すると——

「なあ、心和」

帆向くんは、ふと私の手をそっと取った

「えっ?」

「こうして、バレンタインにお前からチョコをもらってるのが、なんかすごく不思議で……でも、めっちゃ幸せだなって思って」

彼の手は少しだけ温かくて、その温もりがじんわりと広がっていく

「俺、本当にお前が好きだよ」

帆向くんはそう言って、ふっと微笑んだ

「……私も、好き」

私は小さく答えながら、帆向くんを見つめた

そして次の瞬間——

ふわりと、優しく唇が触れ合う

驚きと、温もりと、少しの甘さを感じるキスだった

「……甘い」

そっと唇を離し、帆向くんが微笑む

「えっ?」

「心和の味」

「ばっ、何言ってるの!?」

「はは、冗談」

からかうような笑顔に、私は思わず顔を真っ赤にする

だけど、そんな帆向くんの笑顔が見られるだけで、私は幸せだった

——このバレンタインは、きっと一生忘れない特別な日になる