冬の海は静かだった

波の音だけが響く砂浜に、私たちは並んで立っていた

「……やっぱり、綺麗」

水平線の向こうでは、夕陽がゆっくりと沈んでいく

オレンジと藍色が混ざり合う空は、まるで夢の世界みたいだった

「久しぶりだな」

「うん……」

私は波打ち際まで歩き、そっと足元に寄せる波を見つめた

冷たい潮風が頬を撫でるけれど、それすら心地いい

「……あの時は、ここで倒れちまったんだよな」

帆向くんが、少し照れくさそうに笑う

「うん。でも、今日は倒れないでね?」

「……約束するよ」

彼は私の隣に並び、私の肩をそっと引き寄せた

ドキン、と心臓が跳ねる

「……寒くない?」

「え?」

「手、冷たいだろ?」

そう言って、帆向くんは私の手をそっと包み込んだ

「……あったかい」

「心和が冷たすぎるんだよ」

クスッと笑いながら、彼は私の指を絡めるように握る

——好き

こんなふうに優しく触れられるたびに、胸がぎゅっとなる

「……心和」

「なに?」

「……目、閉じて」

「えっ……?」

驚いて彼を見上げると、帆向くんは真剣な瞳で私を見つめていた

夕陽に照らされた横顔は、どこか儚くて、美しかった

「……いいから、閉じろ」

「……うん」

少し緊張しながらも、そっと目を閉じる

そして——

ふわりと、柔らかな感触が唇に触れた

息を呑む間もなく、帆向くんの温もりが私を包み込む

優しくて、でも確かに想いが伝わるキス

波の音だけが、静かに二人を包み込んでいた

「……好きだよ」

唇が離れたあと、彼はそっと囁く

「……私も」

私は涙が出そうになるのをこらえながら、彼を見つめた

——この時間が、ずっと続けばいいのに

夕陽の中、二人だけの世界がそこにあった