「外の空気、久しぶりだな……」

帆向くんはゆっくりと息を吸い込みながら、病院の中庭を歩いていた

午後のやわらかい日差しが、緑の芝生や花壇を優しく照らしている

病院の敷地内とは思えないくらい、穏やかでのどかな雰囲気だった

「気持ちいいね」

私は帆向くんの隣を歩きながら、小さく微笑む

「うん……」

彼は少し遠くを見つめるようにしながら、ゆっくりと歩いている

病み上がりだから無理はできないけど、こうやって一緒に歩けることが嬉しくて、自然と心が温かくなった

「そういえばさ、ほら、あそこのベンチ」

私は中庭の奥にある木陰のベンチを指さした

「私、お見舞いの帰りによくあそこで休んでたんだよ」

「……そうなのか?」

「うん。帆向くんが目を覚ますまで、ここで何度も空を見上げてた。だから、なんとなく思い出の場所かも」

そう言うと、帆向くんは少し考えるような顔をして——

「じゃあ、座るか」

と言って、そのベンチへと歩き出した

「え? いいの?」

「……お前が『思い出の場所』って言うなら、俺も知っときたい」

その言葉に、私は胸がじんわりと温かくなるのを感じた

二人並んでベンチに座ると、春の風がそっと吹き抜ける

「なんか……こういうの、いいね」

「……ああ」

帆向くんは少しだけ空を見上げながら、ぽつりと呟く

「お前とこうしてると、普通の高校生みたいだ」

「……普通の高校生だよ?」

「いや……俺は、ちょっと違うから」

彼はそう言って、ふっと笑った

「……それでも、お前といると、不思議とそんなこと忘れられる」

「帆向くん……」

私はそっと彼の手に触れる

「これからも、ずっとこうやって一緒にいられるよ」

「……そうだな」

彼は私の手をそっと握り返しながら、小さく微笑んだ

病院の中庭での小さな約束

それは、これからの未来への希望のように感じた——