放課後の静かな校舎を、靴音が響く

「なあ、廣瀬！」

いきなり後ろから声をかけられ、心和はびくりと肩を震わせた

振り返ると、そこには無邪気な笑顔を浮かべた帆向がいた

「……何？」

「いや、なんかさー、もっと仲良くなりたいなって思って！」

「……仲良く？」

「そう！俺たち席も近くなったし、こういうのって大事じゃん？」

心和は少し困惑した

これまで誰かに積極的に話しかけられることなんてほとんどなかったからだ

それに、帆向のようなタイプは、心和の世界とは無縁の存在だと思っていた

「……別に、仲良くならなくても、いいんじゃない？」

「えー！そんなこと言うなって！廣瀬ってさ、学校生活、楽しんでる？」

「……普通」

「うそだ！」

「……嘘じゃない。」

「いや、絶対嘘だろ！だってさ、俺、廣瀬が誰かと楽しそうに話してるの見たことないもん！」

「……ほっといてよ」

「いやいやいや！せっかく席も近くなったんだから、俺と話してみたらいいじゃん！」

帆向はぐいっと心和の顔を覗き込むようにして笑う

その距離の近さに心和は思わず一歩後ずさった

「……別に、私は……」

「なあ、廣瀬ってさ、休みの日何してんの？」

「……本、読んでる」

「へー！どんな本？」

「……色々」

「おお、いいね！俺、本ってあんま読まないんだけど、オススメあったら教えてよ！」

「……なんで？」

「いや、話のネタになるかなって思って！」

心和は呆れたようにため息をついた

なんでこの人はこんなに積極的に話しかけてくるのだろう

距離感が近すぎて、心和のペースが乱される

「なあ、せっかくだしさ、もうちょっと話してこうよ！」

「……どこで？」

「うーん、屋上とか？あ、ダメか、鍵閉まってるな。じゃあ、校庭！」

「……帰りたいんだけど」

「えー、ちょっとくらい付き合ってくれてもいいじゃん！」

帆向の無邪気な笑顔に、心和は少しだけ言葉を詰まらせた

「……少しだけね」

「やった！」

帆向の笑顔は太陽のように眩しくて、心和は少しだけ目を細めた