いつものように病院で帆向くんと過ごした帰り道

夕焼けに染まる空をぼんやりと見上げながら、私は歩いていた

「心和ちゃん!」

不意に呼び止められ、振り向くと——そこには純鈴ちゃんが立っていた

「純鈴ちゃん?」

「ちょっといい?」

彼女の表情はどこか真剣で、私は思わず頷いた。

***

「実はね、今度の週末に読書会があるの。一緒に行かない?」

読書会

純鈴ちゃんがよく通っている、小さな図書館で開かれるイベント

「読書会……」

「うん。みんなでお気に入りの本を持ち寄って、感想を語り合ったりするの!心和も読書、嫌いじゃないでしょ?」

「ううん、むしろ好きだけど……」

言いかけて、ふと躊躇する

だって、その日は——

「帆向くんのお見舞い……」

「……やっぱり、そう言うと思った」

純鈴ちゃんは少し困ったように笑った

「ねえ、心和。毎日お見舞いに行くのは素敵なことだと思うよ?でも……自分の時間も、大切にしてほしいんだ」

「……私の時間?」

「うん」

純鈴ちゃんは私の目をまっすぐに見つめる

「心和、ちゃんと自分のための時間を作ってる?」

「それは……」

答えに詰まる

帆向くんが入院してから、私は毎日病院へ通っている

朝起きて、学校へ行って、放課後は病院へ直行する

家に帰るのは夜で、宿題をして、お風呂に入って、眠る

——そういえば、最近、自分のために何かしたことって……あったっけ?

「心和はさ、優しいから。海藤くんのために頑張ろうとするのもわかる
 でも、それで心和が疲れてしまったら、きっと海藤くんも悲しむと思うんだ」

「……」

「少しくらい、自分のために時間を使ってもいいんじゃない?」

優しく、それでいてどこか切実な純鈴ちゃんの言葉が、私の胸に響く

「だからね、読書会に来てほしいの」

「……」

「もちろん、無理にとは言わない。でも、一度くらい、お見舞いをお休みしてみるのも悪くないんじゃないかな?」

彼女の言葉は、ゆっくりと私の心に染み込んでいく

「……わかった」

小さく、だけどはっきりと頷いた

「読書会、行ってみる」

純鈴ちゃんの顔がぱっと明るくなった

「ほんとに?」

「うん。……自分の時間も、大切にしてみる」

「よかった!」

彼女は嬉しそうに笑う

「じゃあ、週末、楽しみにしてるね!」

そう言って、純鈴ちゃんは軽やかに手を振りながら帰っていった

私はその場に立ち尽くしながら、夕焼け空を見上げる

帆向くんに会いたい気持ちは変わらない

でも、少しだけ——自分の時間を持ってみるのも、悪くないのかもしれない