あの日から、私は毎日病院へ通うようになった

学校が終わるとすぐに病院へ向かい、帆向くんの病室へ入る

「今日も来たのか」

ベッドの上で本を読んでいた帆向くんが、私を見るなり微笑んだ

「当たり前でしょ」

私はベッドの横の椅子に座り、持ってきた袋を机の上に置いた

「ほら、今日の差し入れ。栄養ゼリーと、あとリンゴも切ってきたよ」

「……なんか、世話焼かれすぎてる気がするんだけど」

「気のせい!」

私は笑いながら、リンゴを一切れフォークに刺して彼の口元に差し出した

「ほら、あーんして」

「いや、自分で食べられるし」

「ダメ! 病人なんだから、ここは素直に甘えて?」

「……はいはい」

彼は少しため息をつきながらも、私の差し出したリンゴを口に含んだ

「……美味い」

「でしょ?」

そんな何気ない時間が、すごく大切に思えた

***

次の日も、また次の日も、私は病院へ向かった

「今日はテスト返却だったんだよ!」

「お、どうだった?」

「それがね、数学が……」

「……まさかの赤点?」

「うっ……ギリギリだったけど、赤点じゃないもん!」

「ははっ、相変わらずだな」

そうやって、学校の話をしたり、テレビを見たり、ただのんびりと過ごす

それだけでよかった

——彼がここにいる、それだけでよかった

***

「……心和、毎日来てて大丈夫か?」

ある日、帆向くんがぽつりと呟いた

「何が?」

「お前、ちゃんと友達とも遊んでるか? 俺のことで無理してないか?」

「無理なんてしてないよ」

私は、きっぱりと言った

「私は、帆向くんのそばにいたいの」

「……そっか」

彼は、少しだけ寂しそうに笑った

「本当に、俺のために時間を使っていいのか?」

「いいに決まってるでしょ」

私は帆向くんの手を握る

「だって、私は……」

「……?」

「一緒にいたいんだもん」

彼の目が、大きく見開かれる

「これから先、どうなるかなんてわからない。でも、今この瞬間、私は帆向くんといたいの」

「……心和」

「だからね、これからもずっと、私は毎日ここに来るから!」

彼は少し驚いたように私を見つめたあと——

静かに、手を握り返してくれた

「……ありがとな」

それだけの言葉が、私の胸の奥まで響いた

どれくらいの時間、こうしていられるのかはわからない

でも、私はずっと——彼のそばにいると決めた