君が居場所をくれたから

授業のチャイムが鳴り、クラスメイトたちがざわめきながら席を立ち始める

廣瀬心和は、ゆっくりとノートを閉じ、静かにカバンにしまった

「廣瀬!」

突然、元気な声が教室に響いた

振り向くと、海藤帆向が教室の入り口に立っていた

教科書もノートも持たず、両手をポケットに突っ込んでいる

「今日さ、ちょっと付き合ってくれない?」

「……付き合う?」

心和は戸惑いながら聞き返す

彼とは今日初めてまともに話したばかりだ

なのに、もう放課後に誘われるなんて

「うん。まあ、そんな大したことじゃないんだけどさ!」

帆向はニッと笑い、心和の返事も待たずに「ほら、行こう!」と腕を引っ張った

「え、ちょ、ちょっと……!」

抵抗する間もなく、心和は帆向に連れ出されてしまった

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放課後の校舎の廊下は、部活動に向かう生徒たちで賑わっていた

帆向はそんな中をすいすいと歩き、心和を連れて階段を降りていく

「どこに行くの?」

「んー、まあ、着けばわかるって!」

相変わらず自由奔放な様子の帆向に、心和はため息をつきながらも、歩調を合わせるしかなかった

やがて二人がたどり着いたのは、学校の裏庭だった

普段はあまり生徒が来ない静かな場所

春になると桜が咲くことで知られている

「ここ、好きなんだよね」

帆向は芝生に腰を下ろし、心和にも「座れよ」と促した

「……どうして、私をここに?」

「んー……なんかさ、お前って、ずっと一人でいること多いじゃん?」

心和は驚いて帆向を見た

「別にそれが悪いとか言うつもりはないよ?でも、なんていうか……俺、放っておけなくてさ」

彼はどこまでも自然体で、心和をじっと見つめていた

その視線がまっすぐすぎて、心和は思わず目をそらす

「私は……別に、一人でも……」

「本当に?」

帆向の言葉が、心和の胸に刺さった

「一人が好きなら、それでいい。でもさ、もし少しでも寂しいって思ったことがあるなら……俺が一緒にいるよ」

まるで陽だまりのような言葉だった

心和はしばらく黙っていたが、やがて小さく「……ありがとう」と呟いた

それを聞いた帆向は、嬉しそうに笑った

「よし! じゃあ、今日は俺の話でも聞いてもらおっかな!」

そう言って、彼は次々と他愛もない話をし始めた

心和は、それを静かに聞きながら、ふと気づいた

――こんなふうに誰かと話すの、いつぶりだろう

帆向の言葉は、心和の固く閉ざされた心を少しずつ解かしていくようだった