文化祭は無事に終わり、あっという間に後夜祭の時間になった

グラウンドには色とりどりのライトが灯され、みんなが楽しそうに騒いでいる

だけど、私は今、そこにはいない

「……本当に、ここで合ってるのかな?」

私は屋上の扉の前で立ち止まり、小さく息を吐いた

——「後夜祭が始まる前に、屋上に来て」

そう言ったのは海藤くんだった

なぜ呼ばれたのかは分からない

でも、なぜか胸の奥がずっとざわざわしている

意を決して、私は扉を押した

「——やっと来た。」

夕焼け色に染まる屋上で、海藤くんは柵にもたれかかっていた

「ごめん、待たせた?」

「いや……俺も今来たとこ」

その言い方、たぶん嘘だ

きっと私よりずっと前からここにいた

「……あの、なんでここに?」

「心和と二人で話したかったから」

静かに、海藤くんはそう言った

「文化祭、楽しかった?」

「うん!」

即答すると、海藤くんは少し笑う

「……そっか。」

なんだろう、この空気

さっきまでみんなと賑やかに過ごしていたのに、ここだけまるで時間が止まっているみたいだ

「海藤くんは?」

「俺?」

「文化祭、楽しかった?」

彼は少しだけ目を細めた

「……そうだな」

「?」

「たぶん、今が一番楽しい」

そう言って、私のほうをまっすぐに見つめる

夕焼けが彼の横顔を照らしていて、なんだかいつもより柔らかい表情に見えた

「心和」

「え?」

「俺のこと、そろそろ名前で呼んでよ」

「.....っ!」

そ、そんなのハードルが高すぎるよ!

「帆向って呼んで?」

「ほ、ほなた、さん」

「さん付けって(笑)」

「だって、ハードルが高いんだもん!」

「はは!そりゃそうか」

心臓の音が、やばい

顔が熱い

「俺……お前のこと、好きだから」

「っ……」

言葉が出ない

「もう我慢できない...!」

彼はそう言って、私の頬にそっと手を添えた

指先が、少しだけ冷たい

——だけど、その温度がすごく優しく感じた

「……心和」

また名前を呼ばれた瞬間、私の中の何かが決壊した

「……私も、帆向くんが好き」

そう言うと、海藤くんの目が少しだけ驚いたように見えた

でも次の瞬間——

「……ん」

ふわりと、唇に柔らかい感触が触れた

一瞬、何が起こったのか分からなかった

でも、目を閉じると分かる

——キス、されてる

静かな風が二人の間を吹き抜けて、夕焼けがそのシルエットを優しく包み込んでいた

長くも短くもない、でも確かにお互いを想う気持ちが伝わるキスだった

「……好きだよ」

唇が離れたあと、彼はもう一度そう言った

「……私も」

私は、涙が出そうになるのをこらえながら、彼を見つめ返した

屋上に響く後夜祭の音楽の中、私たちだけの時間が、そこに確かに存在していた——