そして、迎えた文化祭当日

朝から学校中が浮き足立っていて、いつもより賑やかだ

教室に入ると、すでにみんなが準備を始めていた

私のクラスの出し物は「お化け屋敷」数日前までいろいろあったけど、なんとか完成した

「おーい!そこの亡霊役、衣装ちゃんと着て!」

「わぁぁ!もうメイクしちゃってるの!? 怖っ!」

「ちょっと待って!ライトの位置もう少し調整する!」

クラスメイトたちがバタバタと最後の仕上げをしている

私も急いで自分の役割を確認した

私は入り口の案内係

怖がって入るのをためらうお客さんの背中を押す、重要な役目だ

「心和ちゃん!」

振り向くと、花緋ちゃんと優鞠ちゃんがやってきた

「どう? 準備できてる?」

「うん、もうすぐオープンだよ!」

「楽しみだな~! ってか、あれ?」

花緋ちゃんがきょろきょろと周囲を見回す

「海藤くんは?」

「えっ?」

「ほら、クラスの男子はみんな裏でお化け役の準備してるけど……海藤くんの姿が見えないなーって。」

「……たしかに。」

私も気になって、少しだけドキッとする

「もしかして、お化け屋敷が苦手で逃げたんじゃない?」

「まさか!」

「意外と可愛いところあるのかもよ?」

花緋ちゃんと優鞠ちゃんが笑い合うけど、私は少しだけ不安になった

——海藤くん、どこ行ったんだろう?

オープンしてしばらく経つと、お化け屋敷は大盛況だった

「やばい、めっちゃ怖い!!」

「ひぃぃぃ!! ちょっと待って! もう進みたくない!!」

「おい押すなってば!!!」

廊下の外まで悲鳴が響いてくる

私が案内係としてお客さんを誘導していると——

「……よぉ」

聞き慣れた声がして、振り向く

「海藤くん!」

そこには、いつものようにクールな表情の海藤くんが立っていた

「どこ行ってたの? ずっと探してたんだよ!」

「ちょっと準備してた」

「準備?」

「まぁ、見てて」

海藤くんはそう言って、お化け屋敷の中へと入っていった

私は不思議に思いながらも、次のお客さんを案内する

しばらくして——。

「うわああああ!! なにこれ!! こわっ!!」

「ぎゃあああ!! ちょ、マジでヤバい!!!」

これまで以上の悲鳴が中から聞こえてきた

「え、なに? そんなに怖いの?」

「うちのクラスのお化け屋敷、めちゃくちゃレベル高くない!?」

お客さんたちがざわざわし始める

その時——

「バッ!!! 」

お化け屋敷の出口の幕が勢いよく開いた

そして、その向こうから出てきたのは——

「お前、やりすぎ!!!」

「心臓止まるかと思ったんだけど!!」

「二度と入りたくねぇ……!!!」

泣きそうな顔の男子たちと、青ざめた女子たち

……え? え??

その後ろから、ひょこっと顔を出したのは——海藤くん

「……ふっ」

……え、笑ってる!?

「な、何したの?」

「ちょっと特別演出をな」

「特別演出?」

「……俺が、最後のボス役」

「え?」

「ライトの影使って、**首なし騎士**の演出した」

「…………」

そりゃ、怖いに決まってる

「心和も入ってみる?」

「いや、遠慮しとく……」

「はは、だよな」

珍しく笑う海藤くんを見て、私は思わず微笑んだ

「でも、楽しそうでよかった」

「ん?」

「文化祭、海藤くんも楽しんでるみたいだから」

「……まぁな」

海藤くんは少しだけ目を伏せて、それから私を見つめる

「心和は?」

「え?」

「心和は、楽しんでる?」

「……うん!」

即答すると、海藤くんは少しだけ満足そうに頷いた

「なら、よかった」

夕暮れが近づく中、文化祭の賑やかな音が響く

海藤くんの笑顔が見れたこと、それが何よりも嬉しかった