次の日、私はずっと気になっていたことを考えていた

——花緋ちゃんと優鞠ちゃんのこと

二人が喧嘩してから、前みたいに話しているところを見ていない

花緋ちゃんは昨日、私に謝ってくれた。でも、まだ優鞠ちゃんとは……

「……花緋ちゃん」

昼休み、私は思い切って花緋ちゃんに声をかけた

「優鞠ちゃんに、ちゃんと話さなくていいの?」

「……わかってるよ」

花緋ちゃんは小さく呟いた

「でも……なんて言えばいいのか……」

「そのままでいいと思うよ」

私はそっと微笑んだ。

「花緋ちゃんの言葉で、伝えたらいいんじゃないかな?私もいっしょに行くから」

「私もいっしょに行くよ!花緋ちゃん!」

喧嘩があった日は頭痛で休んでいたけど、なんとなくは聞いていたみたいだ

「……心和、純鈴……」

花緋ちゃんは少しだけ迷ったようだったけど、やがて小さく頷いた

「……うん、行こう」

彼女の背中を眺めながら、私はそっと祈る

——どうか、また前みたいに戻れますように

屋上の扉を開けると、そこには優鞠ちゃんがいた

いつも通り、音楽を聴いている

風が静かに吹き抜けて、音楽を運んでいく

「……優鞠」

花緋ちゃんが、小さく名前を呼ぶ

優鞠ちゃんはゆっくり顔を上げた

「……何?」

その声は、まだ少し冷たかった

だけど、花緋ちゃんは逃げなかった

「……ごめん」

「……何が?」

「全部」

花緋ちゃんは、ぎゅっと手を握りしめる

「優鞠が言ってくれたこと、ちゃんと聞こうとしなかったことも  
 自分のことでいっぱいいっぱいになって、優鞠の気持ちを無視しちゃったことも  
 本当は、一番に相談しなきゃいけなかったのに」

優鞠ちゃんは、じっと花緋ちゃんを見つめていた

「……あたし、怖かったんだ。」

花緋ちゃんの声が震える。

「優鞠も、心和も、純鈴も、みんな離れていっちゃうんじゃないかって  
 私は、三人とずっと一緒にいたかったのに……どうすればいいのかわかんなくなって……」

「……バカ」

優鞠ちゃんが、ぽつりと呟いた

「……え?」

「そんなの、離れるわけないじゃん」

優鞠ちゃんは、ため息をついて、静かに音楽を止める

「たしかに、花緋は面倒くさいし、突っ走るし、見ててハラハラするし……正直、喧嘩したときは本気でムカついたけど」

「うん……」

「でも、だからって、友達やめるとかはないから」

優鞠ちゃんは、まっすぐ花緋ちゃんを見た

「私たち、ずっと一緒にいたじゃん」

「……うん」

「これからも、一緒でしょ?」

「……うん!」

花緋ちゃんの目に、涙が浮かぶ

「本当に、ごめんね……!」

「許すとは言ってない」

「えっ!? そこは許してくれる流れじゃないの!?」

「まぁ……もういいけど」

優鞠ちゃんは、ふっと微笑んだ

「……ったく。面倒くさい友達持ったわ」

「優鞠もね!!」

二人の笑い声が、風に溶けていった

私は遠くからその様子を見ていて、心が温かくなるのを感じた

——これで、また元の三人に戻れる

それが、ただ嬉しかった