君が居場所をくれたから

「話したいことがあるんだ。」

海藤くんの言葉が、静かな教室に響いた

私は花緋ちゃんの方を見た

彼女は唇をかみしめていて、でもどこか決意したような表情をしていた

「……わかった」

私がそう答えると、海藤くんは軽く頷き、教室を出るよう促した

私と花緋ちゃんはゆっくりと廊下に出る

海藤くんは少し先を歩き、私たちはそれに続いた

無言のまま歩くこの距離が、やけに遠く感じる

たどり着いたのは、校舎の裏

静かで、風の音だけが響く場所だった

「……花緋、お前、昨日のこと、ちゃんと話せるか?」

海藤くんがゆっくりと問いかける

花緋ちゃんは、拳を握りしめたまま、私を見た

その目は揺れていて、でも覚悟を決めたようにも見えた

「……ごめん」

「え?」

「あたし……最低なことした。わかってる。でも、どうしようもなかったんだ……」

花緋ちゃんの声が震えていた

「文化祭の準備で、優鞠と喧嘩したことも……心和とすれ違うことが多くなったことも……全部、自分のせいなのに」

彼女はゆっくりと視線を落とした

「それでも、心和がどんどん海藤くんと仲良くなって……あたし、どうしようもなくて……」

言葉を詰まらせながら、花緋ちゃんは続ける

「ずっと仲良しだったのに、心和がどんどん遠くに行っちゃう気がして、怖かった」

「……花緋ちゃん……」

「本当に、ごめんなさい……」

私は、胸の奥が締めつけられるような気がした

「愛崎」

海藤くんが、真剣な目で彼女を見つめる

「お前が心和を突き飛ばしたのは、許されることじゃない。でも、オレは——」

一瞬、言葉を切ってから、彼は続けた

「……オレは、お前を責めるつもりはない」

「……え?」

「お前が悩んでたことも、苦しかったことも、わかるから」

花緋ちゃんの目が大きく見開かれる

「でもな、愛崎。大事な友達だからこそ、ちゃんと向き合えよ」

「……うん」

花緋ちゃんは、小さく頷いた

私は、そっと口を開いた

「私も、花緋ちゃんの気持ちに気づいてあげられなくて、ごめん」

「……心和……」

「これからは……ちゃんと話そう? 花緋ちゃん」

「……うん」

花緋ちゃんは涙をこぼしながら、ぎゅっと私の手を握った

その温もりに、私もまた、涙がこぼれそうになる

すれ違ってしまったけれど、それでも——

私たちは、また友達に戻れる気がした

そんな、秋のはじまりだった