「……海藤くん？」

彼の腕の中はあたたかくて、少しだけ潮の香りがした

けれど——

私はふと、彼の鼓動が少し早いことに気づいた。

「ごめん」

そう言って、海藤くんはそっと私の肩から手を離した

私を見つめる彼の瞳には、優しさと、そしてどこか不安げな色が混ざっていた

「無理すんなよって言ったけど……俺も、ちょっと動揺してた」

「……ううん、ありがとう！助けてくれて」

本当に、心の底からそう思った

もし海藤くんが受け止めてくれなかったら、私はどうなっていたかわからない

「でも……花緋ちゃんが、どうして……？」

自分の手を握りしめる

あの瞬間の彼女の表情が、脳裏に焼きついて離れない

「……俺、話してくる」

「え？」

「このままじゃ、愛崎も心和も、モヤモヤしたままだろ」

真っ直ぐな声に、私は思わず言葉を詰まらせた

海藤くんは、私のために——じゃなくて、みんなのために動こうとしている

そう思ったら、なんだか胸が締めつけられた

「……でも、無理はしないでね！」

「わかってる」

そう言って、彼は私の頭を軽くぽんっと叩いた

まるで「大丈夫だ」って言い聞かせるみたいに

「心和、先に帰れよ」

「……うん」

そうして私は、海藤くんの背中を見送るしかなかった——

——次の日

文化祭の準備が再開されたけれど、教室の空気はどこかぎこちなかった

花緋ちゃんはまだ学校に来ていなかった

そして、海藤くんも

「ねぇ……大丈夫なのかな」

優鞠ちゃんが不安そうに呟く

「……わかんない」

私は、昨日の海藤くんの言葉を思い出していた

——話してくる

何を話したんだろう

花緋ちゃんは、どんな気持ちだったんだろう

「心和」

ふいに、教室の扉が開く音と同時に、私の名前が呼ばれた

そこに立っていたのは——海藤くん

「……！」

だけど、その隣には

「……おはよう。」

申し訳なさそうな顔をした花緋ちゃんが立っていた

「花緋ちゃん……」

静かな教室の中で、私たちの視線が交差する。

「話したいことがあるんだ」

海藤くんが、真剣な顔でそう言った

「オレと、お前と、花緋で」

その言葉に、私は小さく息を呑んだ

——何かが、動き出そうとしている

そう感じたのは、きっと私だけじゃなかった——