「……お前、大丈夫か？」

海藤くんの腕の中で、私はまだ動揺していた

今の、何が起こったの？

花緋ちゃんは……どうして……？

「……心和」

「——え？」

私の思考が、一瞬で止まる

今、なんて……？

「心和」

——やっぱり、呼ばれた

今まで、ずっと「お前」だったのに

「……ど、どうしたの？」

思わず顔を上げると、海藤くんは少し気まずそうに視線をそらした

「……なんか、お前って呼ぶの、違う気がして」

「……」

胸が、ドクンと跳ねる

海藤くんの声が、やけに近くて

彼の腕が、まだ私を支えていて

「お前……じゃなくて、心和。お前は、大丈夫なのか？」

「……っ」

なんでだろう

呼ばれただけなのに、すごく、すごく——嬉しい

「うん……大丈夫……」

顔が熱い。心臓がうるさい

私は俯いて、ぎゅっと制服の袖を握った

「……そっか」

海藤くんは、安心したように小さく息をついた

でも——

「……ごめん。」

「え？」

「……俺、愛崎があんなふうになるなんて、気づいてやれなかった」

海藤くんの顔が、苦しそうに歪んだ。

「……俺がもっとちゃんと見てれば、こんなことには——」

「違うよ！！」

思わず、私は大きな声を出していた。

「海藤くんのせいじゃない。誰のせいでもない……。だから、そんな顔しないで」

「……心和」

「私は……大丈夫だから」

精一杯、笑顔を作る

でも、その瞬間

海藤くんの手が、私の頭にそっと乗せられた

「……強がるなよ」

「……っ！」

優しくて、温かくて——

その一言が、心に深く染み込んでいく

「無理するな、心和」

そう言って、彼は静かに私を抱きしめた

ドクン、ドクンと、鼓動が重なる

夕陽の中、私はただその温もりに包まれたまま、目を閉じた——