叶翔くんの言葉が頭の中で何度も反響する。

——「お前は、このまま何も知らないほうがいいかもしれない。」

何も知らないほうがいい？

そんなの、あるわけない

私は、海藤くんの「彼女」なのに...

それなのに、どうして...

どうして、彼は何も言ってくれないの？

次の日

私は朝からずっと、海藤くんにどう話しかけるべきか考えていた

何気ない会話をするのは簡単だ

でも、私は知りたい

彼が何を隠しているのか


どうして言ってくれないのか

——聞くべき？

——でも、聞いたら、何かが変わってしまう？

そんなことばかり考えていたせいで、午前の授業はほとんど頭に入らなかった

そして昼休み

「ねえ、心和ちゃん！」

純鈴ちゃんが私を呼ぶ

「今日、一緒に購買行かない？」

「あ……うん、ごめん、今日はちょっと……。」

そう言って、私は教室の隅にいる海藤くんのほうを見た

彼はぼんやりと窓の外を見つめていた

その横には——星奈さんがいる

ふたりで、何か話している

胸がざわつく

やっぱり、ちゃんと聞かなくちゃ

そう思った私は、意を決して海藤くんのほうへ歩いていった

「海藤くん」

名前を呼ぶと、彼は驚いたようにこちらを向いた

「……どうした？」

「ちょっと、話せる？」

「……」

彼はほんの少し迷ったように見えたけれど、すぐに「いいよ」と頷いた

「ごめん、星奈。また後でな」

「……うん」

星奈さんの目が一瞬だけ私を見た

その視線に、どこか複雑な感情が滲んでいる気がして、私は少しだけ息を呑んだ

ふたりで渡り廊下に出ると、窓から秋の風が吹き込んできた。

「……どうした？」

海藤くんが、いつもの優しい声で問いかける

私は彼の顔をじっと見つめた

「海藤くん、私に何か隠してるよね？」

彼の目が、わずかに揺れる

「……どうして、そう思う？」

「叶翔くんが、何も知らないほうがいいって言ったの！けど……私は、そんなの嫌だよ。」

私は、ぎゅっと拳を握りしめる

「もし、私が知らなきゃいけないことなら、ちゃんと教えて！……何を隠してるの？」

海藤くんは少しだけ目を伏せた

そして、静かに笑った

「……お前、鋭いな」

「じゃあ、本当に何かあるんだね？」

「……ああ」

彼は窓の外を見つめる

「じゃあ、話そうかな」

「うん」

「いや、やっぱりできない...」

「なんで...？」

「でも、一つだけ約束する。」

海藤くんはそっと、私の頭を撫でた。

「一生、お前を愛してる」

その言葉が、ひどく切なく聞こえた——