君が居場所をくれたから

海藤くんと星奈さんが教室を出ていったあと、私はその場から動けなかった。

……なんで?

放課後になったら、いつもみたいに話せると思っていたのに

いつものように隣にいて、たわいない会話をして、家までの帰り道を並んで歩くはずだったのに

でも——今日は違う

「心和……?」

優鞠ちゃんの声が聞こえて、ハッとする

「ご、ごめん。ちょっと考え事してて……」

「……大丈夫?」

「うん……」

本当は、大丈夫じゃなかった

「ねえ、ついて行ってみる?」

花緋ちゃんが小さな声で提案する

「えっ?」

「だって、気になるでしょ?」

「……でも、盗み聞きみたいだし……」

そう言いながらも、心のどこかで聞きたいと思ってしまう

だって、あんな風に二人でどこかへ行くなんて、今までなかった

あの子が転校してきてから、何かが変わろうとしている

その正体を知らないままでいるのは、怖い

「……ちょっとだけ、見に行こう」

私は意を決して、小さく息を吸い込んだ

屋上への階段を上がると、扉の向こうから微かに声が聞こえてきた。

私は静かに足を止め、壁の影に身を潜める

——風が吹いて、星奈さんの声が運ばれてきた

「ねえ、なんでそんな顔するの?」

「……」

「久しぶりに会ったのに、全然嬉しそうじゃない。」

「……別に」

「ふふっ!変わってないね~」

そう言って、星奈さんは少し笑ったようだった

「私さ、ここに転校してきたの、偶然じゃないんだよ」

「……知ってる」

「そっか~さすがだね!」

海藤くんの声は、いつもより低かった

「……なんのつもりだよ」

「そんなの、決まってるじゃん!」

——その瞬間

扉の向こうから聞こえてきた言葉に、私は息をのんだ

「だって、私、まだ海藤のこと好きだから」

心臓が、跳ねる

「……ふざけんな」

「ふざけてないよ!」

「……俺には、今、大事な人がいる」

「……心和ちゃん、でしょ?」

星奈さんの声が、少しだけ優しくなった気がした

「うん、知ってる、だから——」

「だから?」

「それでも私は、諦めるつもり、ないよ」

その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが崩れていく音がした