君が居場所をくれたから

夏休みの昼下がり

机の上に広げた数学の問題集とにらめっこしながら、心和は深いため息をついた

「……わかんない」

ページの隅に鉛筆で適当に計算式を書き並べてみるものの、どう考えても答えにたどり着かない

このままだと、22日までに宿題を終わらせるどころか、数学でつまずいて終わりそうだった

(……ちょっと休憩しよう)

そう思ってスマホを手に取ると、LINEの通知がいくつか溜まっていた

グループLINEでは優鞠たちが、次にどこへ遊びに行くか話しているようだったけれど、

心和の目を引いたのは、海藤帆向からのメッセージだった

「宿題終わった?」

終わるわけないでしょ……

そう思いながら、適当に返事を打とうとしたその時――

プルルルルル……!

画面に表示されたのは、「海藤帆向(通話中)」の文字

(え、通話!?)

突然のことに驚きながらも、心和は少し迷ってから通話ボタンを押した

「……もしもし?」

『おー、出た出た!』

向こうから聞こえてきたのは、やけに楽しそうな帆向の声だった

『で?宿題終わった?』

「……終わるわけないでしょ」

『やっぱりな~、心和って絶対ギリギリにならないとやらないタイプでしょ』

「そんなことない……」

そう言いながら、心和はプリントに目を落とした

間違いなくギリギリにならないとやらないタイプではあるけれど、今回はちゃんと計画的に進めようとしている

『今、何の宿題やってんの?』

「数学……だけど、わかんなくて止まってる」

『お、じゃあ俺が教えてやろうか?』

「え? 帆向、数学得意なの?」

『いや、全然』

「は?」

思わず呆れた声を出すと、向こうからクスクスと笑う声が聞こえてきた

『いやいや、俺も宿題やらなきゃいけないし、どうせなら一緒にやった方が楽しいかなーって』

「……だったら、最初からそう言って」

『まあまあ、そう怒るなって~で、どこでつまずいてんの?』

そう言われて、心和は数学のプリントをめくった

「えっと……この二次関数の問題なんだけど……」

『おっ、俺もちょうどそこやろうとしてた!じゃ、一緒に解こうぜ』

「……はぁ」

心和は小さくため息をつきながらも、スマホを机の上に置き、問題に向き直る

……一緒に宿題をするなんて、初めてかも

そんなことを思いながら、帆向の声を聞きつつ、心和はまたペンを動かし始めた