「グッ……何が起きて……」

 男が仲間に助けを求めようにも周りにはクリャウの黒い魔力で作り出された闇だけが広がっている。

「不吉の象徴に……手を出したから……か」

 魔族は今や不吉の象徴とまで言う人がいる。
 たとえ依頼でも魔族になんか手を出すべきではなかった。

 そう思いながら男は口からダラリと血を垂れ流して死んでいった。

「よ、よし! やったぞ!」

 クリャウが魔力の放出を止める。
 すると闇の中に魔力は溶けていき、焚き火に照らされて六体の死体と一体のスケルトンが現れた。

 倒せるかどうか不安であったが夜という環境とクリャウの黒い魔力を活かして上手く男たちを倒すことができた。

「ね、ねえ!」

 一応全員死んでいることを確認してクリャウは馬車の中で寝る魔族の少女に声をかける。

「んん……」

 こんな状況でも魔族の少女はしっかりと眠っている。
 クリャウが何回か声をかけてようやく魔族の少女は目を覚ました。

「君は……?」

「君のことを助けに来たんだ」

「助けに……? そんなこといいからあなたは逃げて」

 魔族の少女はまだ男たちが倒されたことを知らない。
 クリャウが男たちの目を盗んで話しかけているのだと考えていた。

 目の前の少年ではどう考えても男たちを倒すことなどできない。
 どこから来てなぜ助けてくれるのか疑問はひとまず置いといて、無理に自分を助ける必要なんてないと魔族の少女は首を振る。

「……あれ?」

 しかし魔族の少女は気がついた。
 クリャウが焚き火を背にしている。

 焚き火の当たらない馬車の反対側なら男たちから見えないし声をかけてくることも理解できる。
 けれど焚き火を背にしているということは普通に男たちの目につく場所にいるということなのだ。

「早くそこから……そこから…………えっ?」

 クリャウが危ないと思った魔族の少女が檻の端に立ってようやくその状況を目の当たりにした。
 焚き火を囲むように六人の男たちが血を流して倒れている。

 魔族の少女は驚いたように目を見開いた。
 よく見ると少し離れたところにフードを深く被ったスケルトンが立っているのに気づいた。

 薄暗いしフードを深く被っているので魔族の少女はスケルトンがスケルトンだと気づいていない。

「あなたたちがやったの?」

 あなたたちとはいうけれどクリャウが戦えるとは思えないのでスケルトンがやったのだろうと魔族の少女は考える。
 けれど男たちだってただやられるような連中ではない。

 一人で倒すなんてかなり難しい。
 相当な腕前があるか、上手い作戦でも用いたのだ。

 ただ男たちが抵抗するような声もしなかった。

「何をしたの……? どうやってあいつらを……」

「少し運が良かったんだ」

 黒い魔力を利用してなんていうと気味悪がられるかもしれないと曖昧に誤魔化す。

「ええと……あっ、鍵が必要か」

 助け出そうとして鍵が必要なことにクリャウは気がついた。
 クリャウはきっと男たちの誰かが持っているだろうと思って死体を漁り始める。

 魔族の少女は呆然として死体を漁るクリャウのことを見ていた。
 男たちは夜はしっかりと見張りを立てて魔族の少女が何を言おうと耳も貸さなかった。

 プロとして徹底していた。
 決して弱くないはずなのにどうやってこんなに静かに倒したのかと疑問でたまらなかった。

「これかな?」

 最後に殺された男の懐から鍵を見つけた。

「スケルトンさんお願い」

 檻の鍵まで高さがあってクリャウには届かなそうだったのでスケルトンに鍵を渡す。
 顔が見えないようにうつむき気味に頭を下げながらスケルトンは受け取った鍵で檻を開ける。

 手は手袋をつけているので見られてもスケルトンだとバレはしない。

「よいしょ……」

 檻の鍵を開けてクリャウが中に入る。
 そして魔族の少女の手足につけられている鎖を鍵で外す。

 流石に目の前にまで行けばスケルトンの顔が覗けてしまう。
 だからクリャウが鍵を外した。

「俺はクリャウ。君の名前は?」

「わ、私はミューナ……」

 ミューナはぼんやりとしたまま赤くなった手足をさする。

「……どこか行くところは? 君の親は?」

 助けはいいけれどこの先どうしようとクリャウは思った。
 一緒に囚われている魔族でもいるなら任せればいいがミューナは一人である。

 勢いでミューナのことを助け出したはいいけれどミューナをどうしたらいいのか分からない。
 とりあえずさらわれたということはどこか近くに魔族の仲間がいる可能性があると考えた。

「……そうだ、私には行かなきゃいけない場所があるの!」

「行かなきゃいけない場所?」

 ミューナに詰め寄られてクリャウは困惑した顔をする。
 よく見るとミューナはすごく整っていて可愛らしい顔をしている。

 こんなに女の子が近くに来たことがないクリャウは思わず顔を赤くしてしまう。

「あなたこの辺りの人でしょ? タビロホ村って知ってる?」

 クリャウはドキリとした。
 タビロホ村という名前は知っていたからだ。

 それはクリャウの村だった。
 もっと正確に言えばクリャウが滅ぼした村であった。

「し、知ってるよ」

「どこにあるの? 私はそこに行かなきゃいけないの!」

「……行っても無駄だと思うよ」

「えっ?」

 何をするのか知らないけれど、今村に行ったところであるのは多くの死体だけである。