ヴェールはケラエルアランの存在を知っていても場所などの詳細は知らない。
 クリャウのため、魔族のためにケラエルアランを取り返すとの返事をデーミュント族に返した。

 しかし返事だって帰すのに多少の日数はかかる。
 デーミュント族の協力を得てケラエルアランの詳細を掴み、調査などを経て、奪還に至るのはまだまだ先になりそうであった。

「今日から黒き魔力の使い方についても学んでいこうかね」

 いつものように剣の鍛錬を終えたクリャウはご祈祷場に呼ばれた。
 なんだろうと思いながらミューナと一緒に行ってみるとイレヲラとクシャアンがご祈祷場にいた。

「とうとう……!」

 コツコツとクシャアンから話を聞いていたイレヲラであったが、ケラエルアランの話を聞いて少し計画を前倒しにすることにした。
 少しでもできることを増やし、少しでもクリャウの強化に繋げようと考えた。

「クリャウ様ももう黒い魔力の力を活用していらっしゃいます。経験……あるいは本能的なところからある程度使い方を見つけたようですね。それはお父上であるクシャアン様も同じでしたが、ほんの少し気づいたことには違いあります」

 イレヲラは立ち上がると壁に立てかけられている黒い板の前に立つ。
 黒い板の横に置いてある白い石を手に取ると黒い板に白い石で文字を書き込んでいく。

「死霊化、隷属、強化、召喚、収納」

 イレヲラは五つの言葉を黒い板に書いた。

「この五つがクシャアン様が気づいた力です」

「えーと……死霊化、隷属、強化、召喚、収納……?」

 なんとなく分かるのもあるけどこれはなんなのか分からないやつもある。

「一番分かりやすいのは強化でしょうな。クリャウ様もおやりになっているはずです」

「あれかな? 黒い魔力をボワーってやるとスケルトンが強くなるやつ」

「そうですな」

 やや抽象的な表現ではあるけれどミューナの伝えたいことはクリャウにもイレヲラにも分かった。
 クリャウは黒い魔力を放ってスケルトンの能力を強化して戦ってきた。

 まさしくそれが強化であった。

「黒き魔力にはアンデッドを強くする効果があります。ただこれもやり方があるようです」

「やり方?」

「クシャアン様なりのやり方のようですが、その話は後で。今はそれぞれのものについて説明いたしましょう」

 細かい話は後でしていくことにして今は残り四つについて触れていく。

「召喚もお分かりになられるでしょう」

「お父さんやイッチーさんたちを呼ぶ、アレのこと?」

「その通りでございます。次は……隷属。これもなんとなくですがおやりになられている。クシャアン様や他のスケルトンとも繋がりを感じておりますね?」

「うん。なんとなくだけど」

 クリャウはクシャアンを始めとしたスケルトンとの繋がりを感じていた。
 それがなんなのか言葉で説明することは難しいのであるが、まさしく繋がっているという感覚なのだ。

 近くにいるとか、あっちの方にいるなとかそんなことがうっすらと分かるのである。

「黒き魔力によって魔物と繋がり従えること……これが隷属、あるいは隷属化といってもいいでしょう」

 クリャウはクシャアンのことを見る。
 隷属化したとは思っていないけど、最初のスケルトンであるクシャアンとは強くつながっている感じがある。

「クシャアン様によると隷属と表裏一体、一連の行いとして死霊化があります」

「それは私も分かんないな」

「黒き魔力で魔物を従えることができます。しかしクシャアン様の経験上隷属化できたのは死霊化……つまりはアンデッドとなった魔物だけでした」

「スケルトンみたいなってこと?」

「どうやらそうでもないようなのです」

「どういうこと?」

 クリャウとミューナは首を傾げる。

「クシャアン様が従えていた魔物はスケルトン以外のアンデッドだったらしいのです」

「スケルトン以外……となるとなんだろう? ゴーストとか?」

「そうでもなく……クシャアン様は黒き魔力によって死んだ魔物をアンデッドにして従えていたそうなのです」

「ええっ!?」

 ミューナは驚きの声を上げた。
 魔物をアンデッドにして従えていたなんて聞いたこともない話だった。

「必ず従えられたそうでもないようですが、死んだ魔物に魔力与えることでアンデッドとして復活し、同時に隷属もなされるようです。スケルトンも原理としては同じかもしれません」

「んー、確かに」

 クリャウは骨に魔力を与えてスケルトンにした。
 そのことを考えるに死霊化を行っていたともいえる。

「最後が収納」

「これが分かんないよね。収納ってことは何かしまうのかな?」

「でも何をしまうのかな?」

 ミューナとクリャウで収納とは何かを考える。
 ここまで全部魔物に関することだった。

 それなら魔物に関するのかなと考えるけれど収納と魔物が結びつかないでいた。

「ふふふ、魔物をしまうのですよ」

「え?」

「魔物をしまう?」

 それはないだろうと考えていたことが答えで二人ともきょとんとしてしまう。
 ただ魔物をしまうとはなんだろうとクリャウとミューナは顔を見合わせた。