「まだ向こうに知識があるかは知らないがな」

「じゃあもう一つは?」

「クリャウ様の父親から習うのだ」

「えっ?」

「どーいうこと?」

 予想外の言葉にクリャウもミューナも目を丸くした。

「どうやらクリャウ様の父親……クシャアン様も黒い魔力の持ち主だったらしい」

「そういえばそんな話聞いたね」

 ブラウの話の中でクシャアンがクリャウと同じような力を持っていたなんてこともチラリと出ていた。

「生きるために力を隠して過ごしてきたようですが……全く使わずに生きることも難しい。クシャアン様の人生の学び……得られた黒き魔力の使い道をクリャウ様にお教えしようと思うのです」

「父さんが教えてくれるってこと?」

「私が聞いてお伝えいたします」

「そう……」

「そう落ち込まないでください。クシャアン様は喜んでおられましたよ」

「父さんが?」

「あなた様に何か少しでも残すことができる。これが嬉しいようです」

 クリャウはクシャアンを見る。
 今はただ突っ立っているだけで感情も分からない。

 でもクリャウも少し嬉しくなってきた。
 普通の子は父親から何かを習う。

 剣の振り方だったり、家の仕事のやり方だったりと人によるが何かを教えてもらうのだ。
 クリャウの家を燃やしたガキも父親に魔法を教えてもらっていたのである。

 羨ましいと思っていた。
 少し普通とは形が違うけど父親から何かの教えを受けられるということにジワジワと嬉しさが広がる。

「本人の気づきで我流の使い方なのでどこまでのものかは分からないそうですが、ぜひ教えてやってほしいと」

「……うん、俺頑張るよ」

「よかったです。デーミュント族にはすでに遣いを出してあります。そちらの方もすぐに答えがわかることでしょう」

「よかったじゃーん。やることできたね」

「そうだね」

 クリャウが嬉しそうだと自分も嬉しくなるなとミューナは思った。
 自分に何ができるのかとクリャウも悩んでいた。

 ようやくクリャウも動き始めるのだと思うとワクワクもする。

「ただ……」

「ただ?」

「黒き魔力以外にもやっていただくことは多いようです」

「えっ……?」

「クシャアン様からのお言葉です。細すぎる。体を鍛えて剣を誰かに習いなさい、とのことです」

 確かにクリャウは歳の割に背が低めで体も細い。
 食べるものもなければ鍛えている暇もなかったのだから仕方ないのではあるが、やはりこれから戦うことになるのなら体を鍛える必要がある。

「残念ながら自分は教えられない。だが周りに多くの強い人がいるようだから教えてもらいなさいと言っておりましたよ」

「……まー、その通りだよね」

「つ、つつかないでよ!」

 ミューナはイタズラっぽい顔をしてクリャウの脇腹を指でつついた。
 服越しにも分かる。

 あんまり筋肉はない。

「お父さんに戦わせてクリャウが後ろで見てるだけ……なんてずるいもんね」

「う……そ、そうだね」

 クリャウも体を鍛える必要性は感じていた。
 今は朝走って体力づけのみを行なっているが、本格的に剣も習いたいとは思っている。

「ミューナを守れるぐらいには……強くなりたいな」

「ク、クリャウ……」

 時々こうしたストレートな物言いをする。
 クリャウの突然の言葉にミューナは顔を赤くした。

「ふっふっ、仲が良いようで。どう鍛錬を進めていくかは相談の上で決めていこう」

「……が、頑張ります!」

「頑張って、クリャウ!」