「やっぱり父さんなんだね?」

 光の人は頷いた。

「父さん……」

 クリャウが手を伸ばして父であるクシャアンに触れようとする。
 しかしクリャウの手はクシャアンをすり抜けてしまう。

「すまないね、魂に触れることはできない」

 今目の前にいるクシャアンは本来目に見えないはずの魂を見えるようにしたものにすぎない。
 魂は魂なので触れることはできないのである。

「父さん……俺…………頑張ったよ」

 触れられなくてもよかった。
 目の前に父親がいるということがクリャウにとっては大事だった。

「母さんまで死んじゃって……村の人たちは冷たくて……それでも一人で必死に生きてきたんだ……」

 クリャウの手が震え、涙が溢れてくる。
 同時に思いも溢れてきた。

「辛くて……大変で……寂しくて……どうしたらいいか分からなくて……それでも必死にやってきたんだよ……」

 クシャアンは悲しい目をしてクリャウのことを見ている。

「どうして俺たちを置いていってしまったの……?」

 分かっている。
 クシャアンが好きで死んだのではないことを。

 ブラウたちの悪意がクシャアンを殺したのだということは分かっていても、止められなかった。

「でもね……良いこともあったんだ。俺のことを認めてくれる人たちが現れたんだ。まだみんな言うような存在になれるのかは分からないけれど、優しくて俺の力をすごいものだって言ってくれるんだ……」

「クリャウ……」

 魂だけの存在であるクシャアンは答えない。
 答えられない。

 震える声で独白されるクリャウの思いはミューナの締め付けるようだった。

「父さんは……ずっと俺を守ってくれたんだね」

 最初のスケルトンは父親だった。
 なぜ最初のスケルトンが生まれ、なぜクリャウのことを助けてくれたのか、ようやく分かった気がする。

「俺……頑張るよ。みんなのために、俺のために……父さんが心配しなくてもいいように……」

 スケルトンになってまでクシャアンはクリャウのことを守ろうとしてくれている。
 それは愛だといえる。

 クリャウも触れられない父親からの愛を今感じていた。

「もう何が言いたいか分からないや……いっぱいあった。父さんに会ったら言いたいこと……聞きたいこと、頑張ったこと、辛かったこと、たくさんあるけど胸がいっぱいで分かんないや」

 クシャアンは手を伸ばした。
 触れられないけれどクリャウの頬を撫でるように指先をはわせる。

「ただこれだけは言うよ。頑張るから見てて」

 最後に絞り出された言葉はクリャウの決意だった。
 誰にでもなく、父親に誓う。

 色々話したいことはあるが、今は頑張ると心に決めたのだ。
 魔族のためであれ、必要としてくれるなら必要とされるような存在になろう。

 前に進もうと決めていたがクシャアンに誓うことでクリャウはより揺るぎない決意を秘めた。
 クシャアンは優しく微笑んで頷いた。

「……もう時間だ」

 木の板の光が弱くなって、透けていたクシャアンの姿がさらに薄くなっていく。

「父さん……父さん!」

 クリャウが手を伸ばしてもクシャアンに触れることはできない。
 しかしクシャアンが消えて、再び動き出したスケルトンはふらついたクリャウを受け止めて、抱きしめた。

「父さん、なんだね?」

 最初のスケルトンは頷いた。

「触れられるんだね……」

 骨の角張った手がクリャウの頭を撫でた。
 言葉は通じなくてもそこに愛がある。

「俺……この力を持っててよかったよ……」

 クリャウもクシャアンを抱きしめた。
 冷たいはずの骨なのに、確かにそこに温もりを感じずにはいられなかった。

 ーーー第一章完ーーー

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後書き
これにて第一章完結、文字数も10万字を超えました!
個人的にこの小説は気に入ってるのでまだ続きを書いていくつもりですが他にもカクヨムコン出しているものがあるのでそちらを優先します。

ただレビューとか星とか応援くださればやる気にはなるかもしれません。
正式にカクヨムコン参戦となったので応援いただければ幸いです!

これからものんびりクリャウの物語にお付き合いくださると嬉しいです。