「なんで私があんな奴のせいで迷惑被らなきゃいけないの!」

 泣き出したミューナにあわあわとするけれどクリャウの心配をよそにミューナの感情が爆発した。

「あんな奴好きじゃないし、別になんとも思ってない相手もあいつらのせいで気まずくなって……仲良かった子まで離れて……すごいムカつく!」

 ミューナは泣きながら思いの丈をぶちまける。

「なんでこんな目に遭わなきゃいけないの! なんであんな奴の息子となんか結婚しなきゃいけないの!」

「結婚することは……」

「だって、しなきゃ戦争になるんでしょ……」

 ミューナはわんわんと泣き出してしまった。
 クリャウからするとどこまでも強くて気丈な子に見えていたのにこんなに泣くだなんて相当溜め込んでいたのだなと同情してしまう。

 フェリデオなんて好きじゃない。
 当然結婚なんてしたくない。

 ちょっと話しただけの男の子は決闘に負けたせいで近寄ってこなくなり、女の子たちも腫れ物を扱うようにだんだんとミューナから離れていった。
 魂視者としての能力が目覚めたことは嬉しい。

 しかしこんなことになるのは望んでいない。
 悔しいしムカつくし悲しいし、もう自分の感情が分からなくてミューナの涙は止まらなかった。

「一旦落ち着きましょう」

 トゥーラがミューナの背中を撫でて慰める。
 そのままひょいとミューナを抱きかかえると部屋に連れて行ってしまった。

「……どうにかならないんですか?」

 慰めの言葉すらかけられなかった。
 クリャウは何もできない歯痒さにギュッと拳を握りしめる。

「……決闘だろうな」

「決闘……」

 そういえばそんなことも言っていたなとクリャウは思った。

「魔族は決して力が全てなどではない。だが周りを過酷な環境に囲まれているために力が重要視されることはどうしても避けられない。決闘で対決をして決めるのだ」

 力至上主義ではなくとも生き残るためには力の強いものが必要である。
 魔族が生き残るためには人間よりももっと力を必要とする。

 力の強い者の意見が尊重される文化は必要に迫られて今も魔族を縛っている。

「ただフェリデオは強いのだ。大人を含めても強いだろうが……子供同士のことなのだ、戦うのは同年代に限るだろう。そうなると彼に勝てるようなものはいないのだ……」

 決闘をしても結果は分かりきっている。
 それに誰がミューナのために戦ってくれるというのか。

 勝てればいいが、勝ち目の薄い戦いに手を上げてくれるものはいない。

「俺は……ダメですか?」

「君が? ……ダメではないだろうが……フェリデオには勝てないだろう」

 ヴェールはクリャウの細い腕を見る。
 鍛えてもない、剣を握った経験もなさそうな腕だ。

 きっとフェリデオには勝てないだろうと首を振った。
 決闘で負けてしまえばもう言い訳もできなくなる。

 心意気を認めるがクリャウに任せるには少し荷が重すぎる。

「いえ、任せてみてはいかがでしょうか」

「ケーラン、何を言う?」

「そのまま戦えば勝機はないでしょう。ですが少し無理をすれば……あるいは勝てるかもしれません」

「ミューナのためなら無茶なことだってするよ!」

「何をするつもりだ?」

「誓いの決闘をするのです。具体的には……」

 ケーランは自分の考えを説明した。

「……そんなことできるのか?」

「やれますね?」

「……やってみる…………いや、やるよ!」

「少しばかり賭けになるところはありますけれど上手くいけばフェリデオとも戦えます」

「うーむ……しかし……」

 ヴェールは頭を抱えて悩む。

「任せてみましょう」

「トゥーラ……あの子は」

「寝てしまったわ。クリャウ、あなたのこと寝言で呟いていたの」

「ミューナが?」

「そう。きっととても信頼してるのね。あなた、任せてみましょう。どうせ他に策はないのだもの」

「…………分かった。クリャウ様、娘のために戦ってくれ」

 ヴェールは頭を下げた。

「もちろんです。俺に居場所をくれようとしたミューナの居場所を俺が守ります」