「ケーラン、カティナ、悪いがみんなを集めてくれるか?」

「分かりました」

「集めてきます」

 デザートまでしっかり食べたケーランとカティナが席を立つ。

「本当に神託の子だって公表しても大丈夫なのか?」

「ミューナはどう思う?」

「私? 私は……クリャウが神託の人だと思う。分かんないけど、そう感じる」

「ならばいいだろう」

「そうか」

 ミューナの一言で最終決定してしまい、クリャウは驚いた。

「それでいいんですか?」

「ミューナも魂視者だ。まだ力は弱いけれどミューナの勘はただの勘と違うからな」

「そう言えば魂視者ってなんなんですか?」

 時々魂視者という言葉をミューナたちから聞いた。
 魂が見えるとかそんな話は聞いたけれどミューナも魂視者らしいしなんだか集落にとっては重要ポジションにも見える。

「ふむそうしたところも説明しておくべきだな。ミューナ、説明してあげなさい」

「ん、分かった」

 人が集まるまで時間もある。
 その間にミューナが魂視者について説明してくれることになった。

「あのね、魔族の人には特殊な能力が発現することがあるの」

「特殊な能力……」

「それが魂に関わる能力なんだ。魂を見たり、魂の声を聴いたり、そしてさらに能力が強くなると魂を通じて魔族の神様とも繋がることが出来るんだ。魂と関わる能力を持つ人を私たちは魂視者って呼んでる」

「神様!?」

「うん。そうした能力は私のおばあちゃんだったり、私にもその能力があるんだ。まだ私の力は弱いけどね」

 偉そうに説明するもののとミューナは恥ずかしそうに頬を掻く。

「魔族は魂を大切にするからね。魂の声も神様の声も聞ける魂視者はとても大切な存在なんだよ。そして魂の声を聞く能力と神の声を聞く能力も使ってみんなの未来を占うこともしてるの」

「だから我々テルシアン族は魔族の中で中心的な存在になっているのだ」

「分かりやすい説明だったよ」

「そう? ありがと」

 魂視者という魂を見ることが出来る能力があって魔族がそれを大切にしているということは分かった。
 ミューナも族長の娘というだけでなく魂視者としての力を持っているからより大切にされているのだ。

「君のことを神託の子だと信じるのにも理由がある。ミューナはまだ弱くとも魂視者の力を持っている。そんなミューナが君のことを神託の子だと思うのならきっとそうなのだろうという一種の信頼があるからだ」

 ミューナにも魂視者としての能力が備わっている。
 故にミューナの勘というものはただ普通の人の勘と違って尊重されるものになる。

 クリャウが神託にある死の神だとミューナが感じたのならそうなのだろう。
 不思議なものだがそういうことになるのだ。

「もし違ってもお母様がいうようにうちにいればいいよ」

 間違っていたとしてもクリャウならいてくれてもいいとミューナは思う。
 ここまででクリャウは魔族であるミューナたちに偏見を持って接したことはなかった。

 神託の子ではないということになると少し大変かもしれないけれどきっとクリャウならみんなも受け入れてくれるとミューナは信じている。

「うん……ありがと」

 どうせ行くところもない。
 いていいと言ってもらえてクリャウも少し安心した。

「まあ違ったら私の責任でもあるからね! 私がクリャウの面倒見てあげる!」

 ミューナの勘を信じて公表するのだからミューナにも多少の責任は生じてしまう。
 クリャウを見つけ、クリャウを連れてきたのもミューナである。

 たとえ違っても出会って何かを感じたことは間違いないのだ。
 きっとそばにいてくれることに何かがあるのだろうとミューナは自分の勘を信じている。

「人が集まりました」

「ありがとな」

 人を集め終えてケーランとカティナが戻ってきた。

「じゃあ君のことをみんなに紹介しよう」

 ミューナの家の前は少し広めのスペースがあった。
 そこは集落での集会などに使われる場所で、家の前に出ると集落のみんなが集まっていた。

 集落の中を通ってきた時と違って集まった人たちの視線が一気に集まる。
 流石にこうして視線が集まるとクリャウも怯んでしまう。

「みんな聞いてほしい! どうして人間の子がここにいるのか疑問に思っているものも多いだろう!」

 ヴェールが話し始めると視線がそちらに向いてクリャウは少し気が楽になった。

「少し前イレヲラ様がとある神託を受け取りなさった。“我々魔族を覆う闇を飲み込み、魔族を導く黒き光の標となる死の王が現れる”という神託だ」

 魔族の人たちの間でざわめきが起こる。

「そこで私は我が娘ミューナとケーランたちを神託の王を探しに向かわせた」

 ここまでくれば勘のいいものならクリャウが何者なのか分かるだろう。

「そして見つけたのだ! この方こそ我々魔族のを照らす黒き光の死の王である!」

 思ってた紹介と違うとクリャウは苦い顔をしてヴェールのことを見た。

「人間であるけれども魔族と道を共にすることを決めてくれた彼の名前はクリャウだ! まだ死の王と呼ぶには若すぎるかもしれない。だが我々を導く存在になってくれることだろう!」

 これで間違いだったらどうするんですか! と叫びそうになった。