「魔族であるお前らが人間を引き連れてくるとはなぁ。なぜそんなガキを連れてきた?」

「俺の隠し子なんだ」

 ビュイオンがバカにしたような口調で返す。

「はっ! お前に隠し子か。笑える話だな」

「どうしてだ? スルディト、お前の母親との間にできた可愛い子かもしれないだろ」

「その冗談は笑えないな」

 ビュイオンの言葉にタトゥーの男スルディトは不快そうに眉をひそめる。

「今日は帰ってくれないか?」

「もてなしの一つもなく帰れと?」

「おいおい……もてなし合う仲かよ」

「ケーラン、お前しばらくいなかったようだがそのガキが目的か?」

「ビュイオンの隠し子を迎えに行っていたのだ」

「はははっ! イヴェール、スタット、カティナ……それに族長の娘、ミューナまで連れてか? ビュイオンは王族とでもヤッたのか? そんなわけないだろう。何か秘密があるな?」

 スルディトに鋭い視線を向けられてクリャウは思わずたじろぐ。
 なんだか狩りの獲物にもなったような気分だった。

「ガキを渡せ。ついでミューナも寄越せ」

「渡せるわけがないだろ!」

「そうか。なら実力行使だ。やれ!」

「チッ!」

 スルディトが指示を出すと魔族たちが一斉に動き出した。
 盛大に舌打ちしたビュイオンは懐に手を突っ込むと筒状の何かを取り出した。

 魔法で筒に火をつけると空高く筒を投げ上げる。

「くそっ……面倒だな」

 投げ上げられた筒は空中で大きな音を立てて爆発した。

「お嬢様、クリャウ様、下がっていてください!」

 ケーランたちがクリャウとミューナを囲んで守るように陣取る。

「はあっ! 浅いか!」

 迫り来る剣を弾き返してビュイオンが相手を切りつける。
 胸を浅く切られた男は引き下がるが他にも魔族たちが来ているので深追いもできない。

「スケルトンさんたちもお願い!」

 クリャウが黒い魔力をスケルトンたちに送る。

「奇妙な仮面をつけているがそいつらも何者だ!」

 スケルトンたちは今ローブを着て仮面をつけ手袋も履いている。
 ぱっと見ではスケルトンであると分かりにくくなっている。

 クリャウの命令に従ってスケルトンたちも武器を抜いて戦い始める。

「イッチーさんとニッチーさんで協力してスケルトンさんを補助して!」

 今スケルトンは三体いる。
 全部スケルトンさんでは判別も難しいので水賊の船で仲間にしたスケルトンに名前をつけた。
 
 手首に赤い布をつけたスケルトンを一というところから名前を取ってイッチーさん。
 手首に青い布をつけたスケルトンを二というところから名前を取ってニッチーさんとした。

 多少変な名前になったとクリャウも思うのだけど名前のセンスはミューナのもので否定もできずそのまま採用となった。
 本当は最初のスケルトンがイッチーになる予定だったのだけど、なんだかしっくりくる名前が無くて最初のスケルトンはスケルトンさんのままになった。

 クリャウたちは固まるようにして攻撃に対処しているけれどなんせ相手の数が多い。
 相手も無理をせずクリャウたちのことをじわじわと追い詰める。

「……あまり時間もかけていられないな」

 木の上から戦いの様子を眺めていたスルディトが動き出した。

「……スルディト!」

「ふん、甘いな!」

「ぐっ!」

 スルディトはスタットの近くに降り立った。
 スタットが切りつけるがスルディトは容易く剣を防ぐとスタットの腹に蹴りを入れた。

 地面を転がるスタットを無視してスルディトはクリャウとミューナに迫る。

「させるか!」

 イヴェールが戦っていた魔族を殴り飛ばしてスルディトに切り掛かった。

「ぐぅっ!」

 スルディトはイヴェールの攻撃をかわして反撃で剣を突き出す。
 肩に剣先が突き刺さってイヴェールが痛みに顔を歪ませた。

「ほう?」

 さらに最初のスケルトンがスルディトを狙った。
 鋭くて素早い一撃にスルディトも少し驚いた顔をする。

「スルディト様! 増援です!」

「……思ったよりも早かったな。全員下がれ! 撤退だ!」

「逃すか!」

「ふっ、もっと頭使って戦うことを覚えた方がいいぞ、スタット」

 スルディトはスタットの剣を余裕の表情で防ぐ。
 一気に魔族たちが同じ方に走っていき、スルディトもスタットを何度か攻撃して下がらせると同じく森の中に消えていった。

「くそっ……!」

「イヴェール、大丈夫ですか?」

 スタットはスルディトが逃げていった方を睨みつけ、カティナが肩を刺されたイヴェールに駆け寄る。

「大丈夫だ……」

 イヴェールは肩にポーションを振りかける。
 幸い急所は外れていたので大人しくしていれば大事には至らない。

「ビュイオン、大丈夫か!」

「みんな!」

「なにがあった!」

 スルディトたちが逃げたのとは別の方向から魔族が走ってきていた
 戦いが始まる時にビュイオンが投げた筒は信号弾であった。

 走ってきた魔族たちは新しい敵ではなくビュイオンの信号弾を見て助けに来たテルシアン族の仲間なのである。

「ブリネイレル族の襲撃だ」

「なんだと? ここらは奴らの活動域じゃないだろう」

「知るか。待ち伏せしていたようだ」

「イヴェール、怪我をしたのか!」

「スルディトがいたんだ」

「スルディトが!? ううむ、早く集落まで移動しよう。血のにおいもしていてここは危険だ」

 魔族たちが10名ほどが駆けつけてくれてクリャウとミューナも顔を見合わせて少し安心する。