「ひとまず命ご無事でよかったです」

 本当の最悪の場合責任を取って水賊を全滅させるぐらいのつもりがケーランにはあった。
 命さえあれば何とでもなるのでそんなことにならずに済んだ。

「どうだった?」

 タオルを濡らしてクリャウとミューナの顔を軽く冷やし、子供たちに食べ物を分け与えているとカティナとスタットが戻ってきた。

「話はウソじゃない……むしろ弱く言っていたぐらいかもしれないな」

「船内は死体の山……気持ちのいい状態ではありませんでした」

 カティナとスタットの顔を見ればウソではなく本当のことを言っているのだなとケーランも感じた。

「誰もいないのならいい。このまま脱出しよう」

 状況は分かった。
 経緯はともかく水賊は全滅して残っていない。

 ならばこんなところにもう用はない。
 ケーランは乗ってきた小舟ではなく水賊の船にあったやや大きめな船を脱出に使うことにした。

 魔法で風を起こして川を下るようにしながら岸に近づいていく。
 水賊の船からかなり流されつつも何とか岸にたどり着いてクリャウはようやく陸地に戻ってくることができた。

「あっ、何だか地面が揺れないって不思議な感じ」

 ミューナは陸地に降り立って揺れないことに少し感動する。
 時間にすればたった一日ほどのことだが船の上にいる独特の感覚は忘れがたい。

「いいか。誰かは知らないが誰かが助けてくれたとだけ言うんだ」

 当然のことながら助け出した他の子供たちも連れて水賊の船から脱出していた。
 ただミューナたちは魔族で周りによく思われていないし水賊を倒したと正直に名乗り出るとなると色々と面倒が多い。

 ましてクリャウがスケルトンを操って水賊を倒したなど人に信じてもらえるはずはなく、信じてもらえたところで危険だと捕まるのがオチである。
 だからクリャウたちはこのまま町を離れることにした。

 しかし子供たちを連れていくわけには行かないので子供たちは町に帰ってもらう。
 魔族や魔物が助けてくれたなど言っても混乱するだけなので正体不明の人たちが助けてくれたぐらいに証言するように言いつける。

 子供だからそんなに信頼はできないがクリャウたちが関わったことの発覚が少しでも遅れればそれでよかった。

「よし、俺たちも移動しよう」

 子供たちを町の方に送り出してクリャウたちも移動を始めた。
 増えた二体のスケルトンは水賊たちからの持ち物からローブをもらって着せている。

 最初のスケルトンと同じくクリャウについてきていて完全にクリャウの支配下にあった。

「ミューナ、大丈夫?」

「あ、うん……」

 歩きながらミューナは眠そうにしていた。

「少し休憩しよう」

 ケーランもミューナの様子を見て一度休むことに決めた。
 眠くても仕方ない。

 誘拐されてから休む暇などなかった。
 囚われて部屋の中で大人しくしていても精神的には心休まることなどなくずっと起きていた。

 みんなにまた無事出会えて陸地について安心したら疲労感が一気に襲ってきたのである。
 眠くなるのも当然の話なのだ。

 町からも少し離れた。
 子供たちが帰ってきて騒ぎにはなるが、本格的に動き出すのは朝になるだろう。

 水賊の船に近づくのだって人がもいないと聞いていても人員など準備がいるし仮にクリャウたちのことが明るみに出たとしてもまだまだ先のことになる。

「ミューナ?」

 小さく焚き火を作ってチーズとパンを焼く。
 寝る前に何か食べおこうということだったのだけどすでにミューナは半分寝ていた。

 隣に座るクリャウに頭を預けてウトウトとし始めていてクリャウは思わずドギマギしてしまう。

「クリャウ……」

「なに?」

「カッコよかった」

「えっ?」

「生きててくれてよかったし……助けに来てくれて嬉しかった」

 目を閉じて呟くような小さな声だったけどすぐ近くにミューナがいるので声はよく聞こえる。

「来てくれた時……クリャウカッコよかった……」

「う、うん……ありがと」

 ミューナが寝ぼけて発した言葉にクリャウは顔を赤くした。

「良い雰囲気だな」

「やめなさい」

「いーじゃねえか。クリャウが本当に予言通り俺たちの王となるならその隣にお嬢がいれば王妃様だろ?」

 クリャウとミューナの様子を見てスタットはニヤリと笑う。
 最初に比べれば二人はだいぶ打ち解けてきた。

 まだクリャウの方には壁が感じられるけれども歳が近いことやミューナの持ち前の明るさでグッと距離が近づいている。
 クリャウに壁があるのもミューナが嫌なんじゃなくて人との距離の近づけ方が分からないだけだろうとスタットは感じている。

「仮にそうだとしても二人の意思が関わることですよ」

「だから仮にの話なんだよ」

 カティナは呆れたような顔をスタットに向けるがスタットは気にした様子もなく肩をすくめる。

「好き同士ならいいじゃねえか。それによ、あんましウカウカしてると気づいた時にはもう手が届かない……なんてこともあるんだ」

「スタット……」

 スタットは何かを思い出したように悲しげな目をした。

「王様になんてなったら簡単には近づけなくなる。二人にその気があるなら応援したっていいだろ?」

「無理はいけませんよ?」

「無理なんかしねえさ。ただちょっとおせっかい焼くだけだ」

 気づけばミューナはクリャウに体を預けてスヤスヤと寝息を立てている。
 少なくとも今はミューナにとってクリャウは安心できる存在なんだろうとスタットは目を細めて見ていたのであった。

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