「魔物が暴れてる!」

「ああ、チューちゃんは傷つけないように気をつけろよ!」

「違うんだ!」

 船の中では混沌が広がっていた。
 ネズミはいつもよりも激しく暴れ回り、水賊のリーダーが怒らないように慎重に捕えようとしている水賊たちは非常に苦心していた。

 剣は使わず棒とロープでなんとか囲い込んでいっている。
 そんな中でもう一つの騒ぎが起きていた。

「違う? 何が違うんだ?」

「チューちゃんじゃなくてスケ……」

「なっ……!」

 ネズミが暴れたことは面倒な事態であるがネズミの部屋を片付ける良い機会でもある。
 床に転がる骨など掃除をしようと船底に降りていった男の胸から剣が飛び出してきた。

 後ろの方でロープを構えていた男は言葉が変な途切れ方をしたので振り返ってその光景を目撃した。
 男の胸に剣を突き刺したのはスケルトンだった。

「ス……」

 ロープを構えた男が叫ぼうとした。
 しかしほとんど声を出すこともできずに喉を切り裂かれて絶望の目をしたまま床に倒れる。

「みんなお願い。ここにいる人は悪い人ばかりだ。だから倒して……」

 六体のスケルトン、それに一人の子供。
 ネズミを追い詰めた水賊たちはスケルトンに気づいていない。

「ただ子どもは拐われた人だから攻撃しちゃダメだよ」

 クリャウは黒い魔力をスケルトンに送る。
 鉄格子の扉を開けたクリャウはまずネズミを外に追い出した。

 なぜなのか知らないけれどネズミはクリャウのことを恐れている感じだったので簡単だった。
 ネズミが暴れている間にクリャウたちもこっそりと水賊を倒していこうという作戦をクリャウは考えていた。

 クリャウの思惑通りネズミは暴れ回ってくれた。
 そしてさらに運が良いことに何人かの男たちが船底に降りてきたのだ。

 闇に紛れてスケルトンは男たちを襲撃し武器を奪ったのである。
 こうしてスケルトン全員分の武器を確保したクリャウは下から少しずつ水賊たちを倒していった。

 クリャウとスケルトンが通った後には死体しか残っていない。
 魔物のエサにされかけたのだ、クリャウにも慈悲はなかった。

「なんだ!」

「スケルトンだと!?」

 何人もの人が後ろから切り付けられてようやく水賊たちはスケルトンの存在に気がついた。

「おい! ロープから手を離すな!」

 ネズミを捕えかけたのにスケルトンの登場に気を取られて再びネズミが暴れ出す。
 前にはネズミ、後ろにはスケルトンと水賊たちは挟まれる形になり、なぜスケルトンが現れて暴れているのか訳が分からず適切な対応ができないでいる。

「ス、スケルトンを倒せ!」

 一体どれだけの人が倒されたのか。
 床に真っ赤な血が広がって誰かがやっとスケルトンとの交戦を叫んだ。

「つ、強いぞ!」

「囲んで倒せ!」

 黒い魔力を得たスケルトンはただのスケルトンとは違う。
 力押しだけでは簡単に倒すことができない。

「一体やったぞ! ……ぐっ!」

「油断するな!」

 クリャウはひっそりと戦いを眺めながら思った。
 同じように見えるスケルトンだがそれぞれ戦いの技量には差があると。

 クリャウがスケルトンさんと呼んでいる最初のスケルトンは戦い方が上手い。
 剣の扱い方をわかっていてしっかりと立ち回って戦っている。

 一体倒されてしまったけれどその一体はクリャウから見てもあまり剣の扱いが上手くなかった。
 人が死んでも何の感情も動かないのに協力してくれるスケルトンが倒されるとクリャウは何だか嫌な気分になった。

 一体いなくなった。
 そのことで水賊は勢いをつけようとしているがそうはいかない。

 いなくなった分の黒い魔力は他のスケルトンに回せばいい。
 やはり最初のスケルトンは強いので最初のスケルトンに少し多めに魔力を向ける。

「なんだ……こいつら強く……」

「おい、こっちも忘れるなよ!」

 スケルトンがさらに強くなった。
 水賊たちはさらに苦戦を強いられ、ネズミも黒い魔力に怯えるように暴れる力が強くなる。

「……やっちゃってスケルトンさん」

 クリャウの言葉に応じるように最初のスケルトンは剣を振るう。

「高が……高がスケルトンなのに……」

「スケルトンにも魂があるんだよ。バカにしていい相手じゃないんだ。……もう何をいっても無駄かもしれないけどね」

 最後の一人が最初のスケルトンによって切り倒された。
 再び自由になったネズミはどこかに走っていく。

「俺たちも行こう。まだ……終わりじゃない」

 クリャウたちは船の中を下から順に回って水賊を倒していった。
 ネズミを捕縛させるため下に回した人たちで事足りると思っていたのか残りの人たちはバラバラでネズミとスケルトンに次々倒されていく。

「ひ、ひいぃ!」

 腕っぷしに自信のあった仲間たちがあっという間にスケルトンに倒されてしまった。
 若い水賊の男は恐怖に駆られて剣を投げ捨てて逃げる。

「追いかけて!」

 船の上なので逃げようはないが水賊を逃すつもりはない。
 スケルトンとクリャウは男を追いかける。

「リ、リーダー! ……ぐふっ!」

 男はある部屋に飛び込もうとした。
 ドアに手をかけて開けたところで最初のスケルトンが男の胸を剣で貫いた。