「何かの気配がする……」

 黒い魔力が広がっていく。
 うっすらとしか光の届いていなかった牢の中が魔力で黒く染まり、ネズミは怯えたように一鳴きして部屋の隅に下がった。

 うっすらと感じていた周りにいる何かの存在が強く感じられる。
 ミューナによれば水賊に殺されたはずの人の魂たち。

 床に転がっている骨がカタカタ動き出して強く感じていた存在が離れていく。

「くっ……はぁ!」

 なんだか中断できなくてクリャウは魔力を放出し続けた。
 額に汗をかき、魔力が少なくなってクラクラとめまいがして床に膝をついた。

「はぁ……はぁ……成功した」

 肩で息をするクリャウの目の前には五体のスケルトンが立っていた。
 クリャウの黒い魔力によって骨に魂が宿ってスケルトンとなったのだ。

「やっぱりスケルトンさんは……」

 最初のスケルトンがどうしてスケルトンになったのか確証がなかった。
 しかし今こうして目の前でクリャウの魔力によって骨がスケルトンになったのことを見て確信する。

 最初のスケルトンもクリャウの魔力によってスケルトンになったのだ。

「人をさらって売るのも……人を魔物のエサにするのも許さない。俺にはあの子は救えなかった。でも復讐はしてあげるから……」

 まずはどうにかしてここを出なきゃいけない。

「そういえば……お父さんは魔物を呼び出した、なんて言ってたな」

 ふとクリャウはブラウの言っていたことを思い出した。
 クリャウの父であるクシャアンは危機に陥った時魔物を呼び出してみんなを助けた。

 鉄格子の外に最初のスケルトンを呼び出すことはできないかなとクリャウは思ったのである。

「スケルトンさん……」

 どうしてそうしようと思ったのかは分からない。
 気づいたら鉄格子の外に手を伸ばして魔力を放っていた。

 今度は魔力を広げるのではなく魔力を集めるように塊にして放ったのである。

「えっ……」

 黒い魔力の中から手袋をつけた手が伸びてきた。
 鉄格子を掴み、自らを引っ張り上げるようにしてスケルトンが中から出てきたのである。

「スケルトンさん!?」

 ローブや画面をつけた奇妙なスケルトンはクリャウが一番最初に呼び出したスケルトンであった。

「…………呼び出せた」

 スケルトンを呼び出すことができた。
 スケルトンを生み出し、スケルトンを召喚することができる。

「これが……黒い魔力の力?」

 クリャウは自分の手のひらを見つめる。
 開きかけていた扉が完全に開いたような気がした。

 自分の能力に対して不安に思っていたものが闇に溶けるように消えていく。

「俺にもできることがある……いや、俺じゃなきゃできないことがある……うっ!」

 ズキンと頭が痛んだ。
 魔力の使いすぎで魔力がほとんど底をつきていた。

 魔力不足による影響が体に出ていたのだ。

「少し休もう……」

 少し休んだら行動開始だ。
 クリャウは体を引きずるように移動して光の届かない部屋の隅で丸くなる。

「僕を守って。少し……休むから……」

 クリャウは目を閉じた。
 起きたらきっと船は騒ぎになる。

 悪いことをしている人に後悔させてやるんだと思いながらクリャウの意識は闇に沈んでいった。