「一体何があったんだ!」

 タビロホ村で男が地面に膝をついて嘆いていた。
 目の前には男の妻だった人の死体が転がっていた。

 背中から一太刀で切り裂かれていて目は驚きに見開かれたまま絶命している。
 死んでから時間が経って顔色は土のようになっていて生前の美しい姿はどこにもなかった。

 名をブラルという男は妻だった死体のまぶたをそっと閉じさせる。

「ああああっ!」

「アカム……なぜ!」

 他にも妻を失った村の男たちの悲鳴のような声が響いている。
 村にいた男衆のうち、腕の立つものは村から離れて祭りのために必要なものを近くの町まで買いに行っていた。

 そのために難を逃れたのであるが悲劇には巻き込まれた。
 家族や友人、多くの者が死んでいて村には生の気配がなくなっていた。

「話ではスケルトンが急に現れて暴れ出したと……」

 男たちの他には冒険者ギルドから派遣されてきた職員や冒険者が来ていて状況の確認を行なっていた。
 スケルトンが暴れ始めた時に離れていて逃げ切れた人もいて、町にある冒険者ギルドに助けを求めて駆け込んでいた。

 ことの重大さを感じた冒険者ギルドはすぐさま人を派遣していた。
 スケルトンが暴れたという話は聞いていた。

 剣を持ちローブを着た奇妙なスケルトンであったという話だったが死体の傷跡を見れば剣であることは間違いない。

「しかしスケルトンがこんなことを……?」

 スケルトンも魔物ではある。
 人を相手に暴れることはあるもののここまでの被害が出ることはないと冒険者ギルドの職員が顔をしかめる。

 しかも現れたスケルトンは一体だという。
 それならば残っていた村の男たちでも十分に対応できるはず。

「黒いものをまとっていたなんて話もあるが……」

「黒いものってなんだ? スケルトンが何をまとっていたというんだ。きっと見間違いだろう」

「黒いものだと……? それは本当か!」

 ブラルは話をしていた冒険者ギルドの職員に掴みかかった。

「な、なんだよ!」

 掴みかかられた冒険者ギルドの職員は狼狽えたような顔をする。

「黒いもの……黒い魔力……あのガキ!」

「ガ、ガキ?」

 ブラルは冒険者ギルドの職員から手を離すと倒れている死体に目を向ける。
 何かを探すようにブラルは死体を確認する。

「ない……ない……ない!」

「何を探しているんだ?」

 冒険者が怪訝そうな顔をしてブラルに声をかける。

「黒い魔力のガキだ!」

「黒い魔力のガキ? それが一体……」

「スケルトンもあのガキのせいに違いない!」

 ブラルの目は血走っていてぼうけは思わずたじろぐ。

「子供……しかも黒い魔力のだろ? スケルトンもって……子供がスケルトンを操ったとでもいうのか?」

「そうだ! やはりここでは死んでない……あのガキがやったに違いない!」

 イカれてやがる。
 そう冒険者は思った。

 妻を魔物にやられたショックであり得ない妄想を広げて犯人を作り出そうとしている。
 時にこうした人がいるものだとバレないように小さくため息をついた。

「俺のことを疑うのか!」

「疑うも何も……」

 ガキがやったと言われてもにわかには信じ難い。
 しかもその方法がスケルトンを操って村の人々を惨殺させたなど誰が信じるというのだ。

 さらに黒い魔力の持ち主だというのならなおさら何ができるのだという話である。

「あいつのせいに違いない! あいつの父親も……」

「父親?」

「い、いや、なんでもない……ともかくあのガキを見つけ出せばいいんだよ!」

 ブラルの勢いが少し弱くなった。
 ガキの父親が関係していそうだと思ったけれど誰も面倒事に巻き込まれたくなくて何も聞くことはしない。

「ガキならまだ遠くまで行けないはずだ。今から探せば……」

 ブラルは親指の爪をかじりながら何かを呟いている。

「事件の報告はどうしますか?」

「面倒だ。魔物による事故で処理しとけ。調査は打ち切りでこの村は廃村だ」

 残ったものも正常な状態ではない。
 ここで深く関わると痛い目を見ると冒険者ギルドの職員は思った。

 色々と疑念点はあるしブラルの言葉にも引っかかることはある。
 しかしブラルに付き合っていては身が持たないと思ったのだ。

 田舎の村が魔物によってダメになるのは時にあることだ。
 冒険者ギルドの職員は目の前にスケルトンがいない以上は調査をすることを諦めたのであった。

「あのガキ……黒い魔力のガキが……」