三日後に男は再び孤児院を訪ねてきた。
「倍……」
「ええそうです」
訪ねてきた男に対してシスターモーフは交渉を持ちかけてニッコリと笑った。
「いきなりそのように言われても……」
「子供たちが必要なのでしょう?」
「そうですが……」
「孤児院が厳しいことは分かっているのでしょう? 大切な子どもたちを送るのですからこれぐらい要求もします」
「……分かりました。ではお支払いいたしましょう」
男は小さくため息をつくと袋をテーブルに置いた。
シスターモーフが中を見るとお金が入っている。
「では来てくれる子供を紹介してもらえますか?」
「ええ分かりました」
シスターモーフが部屋を出ていく。
程なくして戻ってきたシスターモーフは三人の子供を連れてきた。
「順にイースラ、サシャ、クラインです」
入ってきた子供の一人はイースラであった。
「今一度確認するが君たちはこれから冒険者の見習いとして働くことになる。それでいいのだね?」
「はい」
男の問いかけにイースラが頷く。
少し遅れてサシャとクラインも同じく返事をする。
「細かいことは移動しながら説明しよう。別れの挨拶は?」
「済ませています。荷物もまとめてあります」
「そうか。ならば早速出発だ」
孤児院を出ると他の子供たちが見送りをするために待っていてくれた。
「イースラ、頑張れよ!」
「サシャ、怪我しないでね!」
「迷惑かけんなよ、クライン!」
「うっせえ! 迷惑なんてかけねえよ!」
子供たちがそれぞれイースラたちに声をかける。
「子供たちのことを頼みますよ」
「……お任せください。危ないことはさせませんので」
イースラは小さくまとめた荷物を手に馬車に乗り込む。
用意していたというが元々持っていたものなどごくわずかだったので膝の上に抱えられる程度のものしかない。
三人並んで馬車に座り、男が御者に声をかけると馬車が動き出した。
「改めて、私はバルデダルだ。君たちは今日から我々冒険者パーティーの一員として働いてもらうことになる」
バルデダルと名乗る男は冒険者であった。
冒険者は魔物と戦ったりゲートダンジョンと呼ばれるものを攻略する人のことをそう呼んでいた。
バルデダルが孤児院を訪れた目的は冒険者としての活動を手伝うために子供を引き取ることであった。
「危険なことをさせるつもりはない。後ろの方で荷物を整理したり、簡単な作業をやってもらう。配信に時々映り込むことにはあるがそれも大丈夫だな?」
イースラたちは頷く。
イースラは何が起こるのか知っているし、サシャとクラインはイースラからちゃんと説明されていたのでバルデダルの目的を分かっていた。
「聞き分けがいいな。その方がこちらとしてもありがたい。まあうまくいけばお前らもお金が手に入るんだ。金を貯めていけばそのうち独り立ちだってできるぞ」
簡単なことのように言ってくれるとイースラはこっそり鼻で笑う。
お金を稼ぐのも独立もそう甘くはない。
それを分かっていてバルデダルは簡単なことのように言っているのだ。
イースラたちに期待を持たせてよく働くように仕向けている。
「本当ですか!」
「ああ本当だ」
クラインは純粋にバルデダルの言葉を信じているようだ。
クラインのリアクションのおかげでバルデダルはイースラが冷笑していることなど気づいていない。
「町に着いたら冒険者ギルドに行って冒険者と配信者の登録をするぞ」
ーーーーー
孤児院からすぐのところにあるトースキンという町にやってきた。
町中にある大きな建物が冒険者ギルドであった。
「この子たちの冒険者登録をしたい。登録料と代筆をお願いする」
冒険者ギルドの中には二つの受付があった。
そのうちの一つに寄ってバルデダルが受付にお金を渡す。
「冒険者登録ですね」
受付のお姉さんがチラリとイースラたちを見る。
名前や性別など簡単なことをイースラたちに質問して受付のお姉さんがそれを冒険者登録のための申請書に書き込んでいく。
孤児院の子供であるし文字が書けないだろうと代わりに書いてくれているのだ。
「はい、これで登録となります」
申請書を持って一度裏に下がった受付のお姉さんが三枚のカードを持って戻ってきた。
「これが冒険者としての身分を証明する冒険者証となります。無くさないようにしてくださいね」
一人一枚カードが配られる。
表面に名前と十級と書かれたカードは冒険者としての身分を表す冒険者証である。
これ一枚あれば世界の多くの国で冒険者としての身分を証明してくれる優れものである。
これだけでもバルデダルに従う価値はちょっとぐらいある。
「次だ」
そして隣の受付に向かう。
「なんだコイツ?」
「お面……? なんでそんなものを?」
最初の受付は普通の優しいお姉さんだったのだけど隣の受付は少し異様であった。
受付にいるのは白いローブを着て奇妙な仮面をかぶっている男か女かもわからない人であった。
クラインは眉をひそめて、サシャは少し怖がっているようだった。
「配信者登録をしたい」
「等級は?」
「……声でも分かんねぇな」
仮面の受付は声もガサガサとしていて男か女か判別できない。
「倍……」
「ええそうです」
訪ねてきた男に対してシスターモーフは交渉を持ちかけてニッコリと笑った。
「いきなりそのように言われても……」
「子供たちが必要なのでしょう?」
「そうですが……」
「孤児院が厳しいことは分かっているのでしょう? 大切な子どもたちを送るのですからこれぐらい要求もします」
「……分かりました。ではお支払いいたしましょう」
男は小さくため息をつくと袋をテーブルに置いた。
シスターモーフが中を見るとお金が入っている。
「では来てくれる子供を紹介してもらえますか?」
「ええ分かりました」
シスターモーフが部屋を出ていく。
程なくして戻ってきたシスターモーフは三人の子供を連れてきた。
「順にイースラ、サシャ、クラインです」
入ってきた子供の一人はイースラであった。
「今一度確認するが君たちはこれから冒険者の見習いとして働くことになる。それでいいのだね?」
「はい」
男の問いかけにイースラが頷く。
少し遅れてサシャとクラインも同じく返事をする。
「細かいことは移動しながら説明しよう。別れの挨拶は?」
「済ませています。荷物もまとめてあります」
「そうか。ならば早速出発だ」
孤児院を出ると他の子供たちが見送りをするために待っていてくれた。
「イースラ、頑張れよ!」
「サシャ、怪我しないでね!」
「迷惑かけんなよ、クライン!」
「うっせえ! 迷惑なんてかけねえよ!」
子供たちがそれぞれイースラたちに声をかける。
「子供たちのことを頼みますよ」
「……お任せください。危ないことはさせませんので」
イースラは小さくまとめた荷物を手に馬車に乗り込む。
用意していたというが元々持っていたものなどごくわずかだったので膝の上に抱えられる程度のものしかない。
三人並んで馬車に座り、男が御者に声をかけると馬車が動き出した。
「改めて、私はバルデダルだ。君たちは今日から我々冒険者パーティーの一員として働いてもらうことになる」
バルデダルと名乗る男は冒険者であった。
冒険者は魔物と戦ったりゲートダンジョンと呼ばれるものを攻略する人のことをそう呼んでいた。
バルデダルが孤児院を訪れた目的は冒険者としての活動を手伝うために子供を引き取ることであった。
「危険なことをさせるつもりはない。後ろの方で荷物を整理したり、簡単な作業をやってもらう。配信に時々映り込むことにはあるがそれも大丈夫だな?」
イースラたちは頷く。
イースラは何が起こるのか知っているし、サシャとクラインはイースラからちゃんと説明されていたのでバルデダルの目的を分かっていた。
「聞き分けがいいな。その方がこちらとしてもありがたい。まあうまくいけばお前らもお金が手に入るんだ。金を貯めていけばそのうち独り立ちだってできるぞ」
簡単なことのように言ってくれるとイースラはこっそり鼻で笑う。
お金を稼ぐのも独立もそう甘くはない。
それを分かっていてバルデダルは簡単なことのように言っているのだ。
イースラたちに期待を持たせてよく働くように仕向けている。
「本当ですか!」
「ああ本当だ」
クラインは純粋にバルデダルの言葉を信じているようだ。
クラインのリアクションのおかげでバルデダルはイースラが冷笑していることなど気づいていない。
「町に着いたら冒険者ギルドに行って冒険者と配信者の登録をするぞ」
ーーーーー
孤児院からすぐのところにあるトースキンという町にやってきた。
町中にある大きな建物が冒険者ギルドであった。
「この子たちの冒険者登録をしたい。登録料と代筆をお願いする」
冒険者ギルドの中には二つの受付があった。
そのうちの一つに寄ってバルデダルが受付にお金を渡す。
「冒険者登録ですね」
受付のお姉さんがチラリとイースラたちを見る。
名前や性別など簡単なことをイースラたちに質問して受付のお姉さんがそれを冒険者登録のための申請書に書き込んでいく。
孤児院の子供であるし文字が書けないだろうと代わりに書いてくれているのだ。
「はい、これで登録となります」
申請書を持って一度裏に下がった受付のお姉さんが三枚のカードを持って戻ってきた。
「これが冒険者としての身分を証明する冒険者証となります。無くさないようにしてくださいね」
一人一枚カードが配られる。
表面に名前と十級と書かれたカードは冒険者としての身分を表す冒険者証である。
これ一枚あれば世界の多くの国で冒険者としての身分を証明してくれる優れものである。
これだけでもバルデダルに従う価値はちょっとぐらいある。
「次だ」
そして隣の受付に向かう。
「なんだコイツ?」
「お面……? なんでそんなものを?」
最初の受付は普通の優しいお姉さんだったのだけど隣の受付は少し異様であった。
受付にいるのは白いローブを着て奇妙な仮面をかぶっている男か女かもわからない人であった。
クラインは眉をひそめて、サシャは少し怖がっているようだった。
「配信者登録をしたい」
「等級は?」
「……声でも分かんねぇな」
仮面の受付は声もガサガサとしていて男か女か判別できない。


