「どうしよう……震えが止まらない! お願い……ソドイ!」

 一人はホーンラビットベアに殴り飛ばされた。
 骨は折れているかもしれないがすぐさま命を落とすものではない。

 問題はもう一人の方だった。
 逃げようとして後ろからホーンラビットベアのツノで突き刺された青年は体を痙攣させていた。

「くっ……!」

 教官が状態を確認する。
 体を貫いたツノは急所を外れていた。

 しかし戦いが長引いて出血が多く、青年の限界が近くなっていた。
 このまま放っておけば青年は死んでしまうだろう。

「おい、これを飲め!」

 教官はポーションを取り出した。
 痙攣する青年の口を開かせてポーションを流し込む。

 半分を飲ませて半分を腹の傷に振りかける。
 けれども青年の痙攣は治らず回復しているようにも見えない。

 かなり重篤な状態でポーションが効いていないのだ。

「待ってください! ……これ使ってください」

 もはや町まで運ぶような命の猶予もない。
 教官は剣を抜いた。

 せめて苦しくないように逝かせようとしたのだ。
 イースラは慌ててメニュー画面を開いてポーションを購入した。

 手元にパッと現れたポーションをイースラは教官に押し付けた。

「これでダメなら楽にしてあげてください」

「……試してみよう」

 ポーションだって安くはない。
 二本も使えば可能性があるかもしれないと教官は青年にポーションを使う。

「痙攣が……収まった……」

 ポーションを飲ませるとすぐに効果が現れた。
 青年の痙攣が収まり始めて顔に血の気が戻り始める。

「峠は越えたようだな」

 青年の容態が安定して教官はホッと胸を撫で下ろす。

「君たちはこのまま帰還しなさい。私はこの子を教会に連れて行く」

 傷口はポーションの効果で塞がってきているが、まだまだ安心はできない。

「これでダメならダメだったろうな」

 イースラは教官が投げ捨てたポーションのビンを拾い上げる。
 三角形のフラスコ型のビンには文字とウルフの頭のような図柄が刻んである。

 文字はお店の名前で、ウルフの頭の図柄はお店のモチーフである。
 普通はこんなことしない。

 大体の人はポーションのビンなんて使い捨てにする。
 それなのにわざわざ手間をかけて文字を刻んでいる。

 イースラが渡したポーションは高級品だった。
 ライアンウルフという薬師が作った非常に効果の高いポーションである。

 今は馬鹿みたいに値段が高いので人気がない。
 そのくせ値段を下げるつもりもなければ、廉価なものを作るわけでもない。

 だがそう遠くない未来に、ポーションは効果を認められて入手困難でさらに値段は跳ね上がる。
 今こうして手に入れられたことは幸運であるとしかいいようがない。

「俺たちは帰ろう。色々あったし……疲れた」

「そうだな」

「イースラ、強かったね」

「お前らも努力すればあれぐらいできるようになるよ。ほらお前らも行くぞ。そいつは自分たちで抱えろよ」

 骨が折れた子はちゃんと仲間同士で連れ帰ってもらう。
 イースラに促されて、呆然としていた子たちはようやく動き出しのだった。