「戦う訓練でもありますがこれからは配信という側面も大きくなります。配信としてもやるべきことをやって注目を集める……これも訓練ですよね?」

 絶対に分かってないだろうなと思いながらも教官の顔を立てておく。
 単純に強いということも必要なのだが、これからの時代視聴者とパトロンを取り合う配信者全盛期の時代が訪れる。

 一から十まで教えてやることなんてしないが多少配信に向けたヒントぐらいなら周りに漏らしてもいいだろう。

「う、うむ……」

 たかだか手を振ったぐらいで何が変わるのだと教官は思っているけれど、実際数値として高い傾向にあることは間違いなかった。

「その通りだな。よくやった」

 分からないけれど視聴数もあってパトロンも来ているなら悪いことではない。
 教官は曖昧に笑ってとりあえずイースラのことを褒めた。

「それにやってること……理解してないんだろうな」

 呼び出しはお叱りではなかった。
 教官が最後にみんなを集めて総評だったり、今後の方針を伝える中でイースラはため息をついていた。

 カメラアイに向かってのわかりやすいアピールをしていただけじゃない。
 イースラはカメラがリーダー的な動きをしていた自分についてきていることは察していた。

 だからイースラは自分の位置を調整することでカメラアイの位置を調整していたなんてことまでやっていたのだ。
 教官だけでなく配信を視聴している人にとっても比較的見やすさのある配信だったろう。

 きっと教官だけじゃなく見ている人も誰も気づいていない。
 今時期の配信なんてこんなモノだったのだなと呆れてしまいそうになる。

 こんな調子なのに何がきっかけで配信というものが盛り上がっていくのかイースラにも分からないでいる。

「それにしても残りの連中はまだ帰ってこないのか……」

 とっくに帰ってきてもおかしくないのに一班帰ってこないのか。
 みんなと同じく平原を走り回っていたので遅れてもすぐに来るだろうと思っていたのにどうにもおかしいと教官は感じ始めた。

「なんだこれは……!」

 配信画面を見て教官は驚いた。
 他の人も見れるようになっていたので画面から遅れている班がどうなっているのかイースラにも見えた。

 帰ってこない班は魔物と戦っていた。
 しかしいまだに魔物を追いかけているわけじゃない。

 魔物に襲われている。
 チラリと画面の端には倒れている人も見えていた。

「くっ……これはいったい何が!」

 少し前に確認した時には魔物を追いかけ回していた。
 それなのにちょっと見ない間に何があったのかと教官の顔が青ざめる。

「早く助けに行かなきゃなりません!」

 おおよそ魔物を追いかけ回すことに夢中になって奥に入ってしまったのだろう。
 平原も安全とは言いつつもそれは町から近い場所での話で、町から離れるほどに危険は高まる。

 魔物を追いかけているうちに平原の奥に行ってしまい、そのタイミングでたまたま手に負えないレベルの魔物に出会したのだ。

「俺たちも行きます!」

「うっ……しかし……」

「俺は一応上級ですよ。こいつらもオーラが使えます」

 パッと見た感じかなり状況が悪い。
 教官の実力は知らないけれどここで狼狽えているようならあまり実力的に信頼できない。

 今は一人でも戦力が多い方がいい。

「そうか……助かる」

「お前らは……」

「私たちも行くよ!」

「えぇ……コルティー?」

 イースラはクラインとサシャだけを連れていくつもりだったが、コルティーはやる気を見せている。
 ムジオは困惑している。

「……全員でいこう。いいですね?」

「君も上級ギルド員だからな。判断を尊重しよう」

「走るぞ! 今ならまだ間に合う!」

 ーーーーー

 教官はオーラを使えないらしい。
 一刻を争うのでイースラ、クライン、サシャはオーラを使って加速して先に行く。

 流石にイースラだけ一人で行くことはできないのでクラインとサシャに合わせた速度になっているけれど、オーラを使えない三人よりは速い。

「いたぞ!」

 平原は見通しがいい。
 走っていくと遠くで戦っているギルド員たちが見えた。

「チッ……ホーンラビットベアか!」

 ギルド員たちが戦っている魔物はホーンラビットベアという魔物であった。
 ベアというがクマではない。

 ホーンラビットベアが突然変異的に進化した個体であり、クマのような大きな体になったものである。
 大きくなったホーンラビットベアは性格も凶暴なものに変わってかなり攻撃的で、平原に現れる中では危険な魔物に分類される。

 ホーンラビットベアは頭のツノをギルド員に向けて、足をたたんで力を溜めている。

「マズイな……先行くぞ!」

 みんなもうぼろぼろになっている。
 今ホーンラビットベアに突撃された防ぎ切れないだろうと見たイースラは足に多くオーラを送り込んで一気に加速した。

「……くっ!」

 ホーンラビットベアにツノを向けられたギルド員の女の子は顔をしかめた。
 逃げようにも足がうまく動かないのだ。

 失敗したと後悔する。
 あと一匹と調子に乗って追いかけた結果がこれである。

 走り回って疲労も大きい上にここまでホーンラビットベアの攻撃をかわし続けてもう限界だった。