「そう拗ねるなよ。この感じなら次もあるからさ」

 割とすぐにウルフドッグは襲いかかってきた。
 この分ならば時間内に何回か戦う機会があるだろうとイースラは思った。

「とりゃああああっ!」

「あっちも終わったようだな」

 ムジオとコルティーの方も決着がついた。
 コルティーがウルフドッグの胴体を大きく切り裂いて倒していた。

「もう少し緊張が解ければよさそうだな」

 当然のことながらイースラはムジオとコルティーのことも見ていた。
 なんだかんだとクラインとサシャは肝がすわっている。

 ダンジョンで一度危機的状況になり乗り越えたこともあり、魔物と戦ったことがある。
 そしてオーラという切り札も持っている。

 経験と切り札があれば自ずと戦いにも余裕ができる。
 あとは覚悟さえ決めればいいのだ。

 対してムジオとコルティーの動きは固かった。
 明らかに緊張している様子だった。

 コルティーなんかは口では余裕などと言っていたのだけど、いざ戦い始めると軽口をいう余裕もなかった。
 ウルフドッグにもやや苦戦していたのだが、二人いるから何とかなっていた感じがある。

 素質は悪くないとイースラは見ていた。
 緊張しているから動きが固いだけで、慣れてくればウルフドッグなんて一人でも相手にできるだろう。

 もう少し実戦経験を積めば三級にも上がれるとイースラは見ている。

「どうだ?」

 倒したウルフドッグはちゃんと魔物袋で回収する。
 見たところ怪我はないが、戦っている最中に足をひねったなんて目に見えない怪我をすることもあり得る。

 大丈夫そうだとは思いつつもイースラはムジオとコルティーの状態を確認する。

「うん、大丈夫だよ」

「僕も怪我はないよ」

 二人とも見た目通りに怪我はなかった。

「まだ行けそうか?」

「もちろん!」

「これぐらいなら大丈夫そう」

 みんなやる気に満ちている。
 一つ勝てれば自信にもつながってくる。

 制限時間もあるのでイースラたちは早速次の魔物を探し始めた。

「来るぞ! 今度はサシャとムジオが倒すんだ!」

 どうせならみんなが良い評価をもらった方がいい。
 またしてもウルフドッグを見つけたので今度は先ほどウルフドッグを倒したクラインとコルティーではなくサシャとムジオに倒してもらう。

 襲いかかってきたのは二匹だったのでまたクラインとサシャ、ムジオとコルティーのペアでそれぞれ戦ってもらう。
 サシャとムジオ、クラインとコルティーはそれぞれタイプが似ている。

 サシャとムジオは慎重に丁寧に戦っている。
 対してクラインとコルティーはガンガンと攻めていくタイプだ。

 どちらがいい、どちらが悪いということはない。
 むしろそれぞれタイプが違っている方が色々組み合わせがあっていいと思う。

「やっ!」

 エニは飛びかかってきたウルフドッグをかわすと着地の隙を狙って首を切りつけた。
 深く首を切られたウルフドッグは少しの間苦しそうにうめいて地面に倒れた。

「サシャの方は問題ないな。残りはあっち……」

 ムジオの方は問題ありだとイースラは目を細めた。
 コルティーは動きの固さが取れていて、ムジオをフォローしようと頑張っている。

 しかしムジオの方はまだ動きが固い。
 何度もチャンスを逃している。

 それもチャンスだと分かっているのに踏み込めずにいるから逃しているのだ。
 今は問題になっていないけれども、これは後々大きな問題になるかもしれない。

 チャンスを見逃すことはある。
 慎重を期してあえてチャンスに飛びつかないこともある。

 けれども攻撃することに臆病になってチャンスを逃してしまうことは違う。
 チャンスを逃して戦いが長引けばリスクは本人だけでなく共に戦う仲間にも及ぶ。

 今はまだ格下のウルフドッグだからいい。
 強い敵ほど隙は少なく、一瞬の判断が求められる。

 チャンスに攻撃できなきゃ痛い目を見るのは自分や周りの人なのだ。

「……早く攻撃せえ!」

「ウギャッ!」

 どうしたものかなと考えた。
 多少荒療治でも必要だとこっそり思案していたのだけど、ムジオがウダウダとしていることを感じたコルティーがイラついたようにムジオの尻を蹴り上げた。

「わ、分かったよ!」

 コルティーに怒られてムジオも覚悟を決めた。

「ほぅ……」

 ムジオは飛びかかってきたウルフドッグの口に剣を突き刺した。
 口の中に刺さり、剣先が頭から飛び出す。

 見事に狙い澄ました一撃である。
 度胸はコルティーの方があるようだけど、剣の技量はムジオの方が上であるようだ。

「良いコンビだな」

 コルティーは飛び出しがちなところがある。
 これもまた事故が起こる原因となりうる。

 対してムジオは慎重すぎる。
 二人は短所を互いに補っていけそうな正反対さを持っていた。

 無茶さえしなければこのまま成長していけるだろうとイースラは小さく頷いた。

「ほれ、みんな、アレに手を振って」

 戦いを終え、魔物を魔物袋に収めたイースラは飛んでついてきているカメラアイに目を向けた。
 そして軽く笑顔を浮かべて手を振る。

 イースラがそうするものだからサシャたちも真似して手を振ってみる。