訓練でもある程度強くはなれるだろうけどどうしても限界はある。
 やはり必要なのは実戦経験だ。

「これから魔物の討伐訓練を開始する!」

 実戦とは魔物と戦うことである。
 今回イースラたちは五級、四級のギルド員と共にモンスターの討伐のためにカルネイルの南側に広がる森に来ていた。

 こうした訓練は実戦経験を積むためでもあるが、町近くの魔物を倒すことで町の安全にも寄与している。

「五人一組となって時間まで魔物を倒してくるんだ。一番数の少ない組は一月掃除当番だ」

「……なんか避けられてる?」

「まあいつものことだろ」

 組み合わせは自由である。
 もちろんイースラとサシャとクラインは一緒に動くつもりなのだけどイースラたちと組もうとする人はいない。

 そもそもイースラたちは五級、四級の人たちによく思われていない。
 ゲウィル傭兵団にとっての五級、四級とは仮入団のギルド員となる。

 基本的には五級から始めて昇級を重ねて四級、そして三級になって初めて正式な入団である。
 イースラたちはそんな仮入団を飛び越えて正式入団となった。

 五級、四級は訓練に加えて色々と雑用もこなす。
 大変なことも多く、こうしたことを乗り越えねばならないのだ。

 それはイースラたちが嫌われるのも無理はないのである。
 一応イースラたちも雑用をこなして馴染もうとはしているもののいまだに認めてもらっていない。

 加えてイースラたちが入団テストを受けた時周りにいたのは三級以上の人たちであった。
 イースラたちの実力を目の当たりにしておらず、訓練での様子しか知らないのだ。

 イースラはともかくとしてクラインとサシャの二人は基礎もまだまだの子供にしか見えていない。
 ビリになったら掃除当番という罰もあるのにわざわざ実力も分からず良くも思っていないイースラたちと組む理由がないのである。

「このままあぶれりゃ三人だけでいいんじゃねーの?」

 サシャは周りの目を気にしているようだがクラインはあまり気にしていなかった。
 周りは周り、自分は自分だと思っている。

 戦い方が下手くそだと思われているなら努力して上手くなればいい。
 まだまだ自分は伸びることができるのだから周りのことなんか気にしている暇などないと前向きである。

 それにイースラに以前に言われた言葉もクラインの中では印象も強かった。

“相手の実力も分からない奴らを気にすることはない。俺たちが飛び級になったのは実力があるからで、まだまだ将来性もあるのに嫉妬で無視するような目の曇った奴はこちらから願い下げだ”

 イースラたちが偉くなるかはまだわからないが、その可能性は高い。
 強くなる可能性も高くて、切磋琢磨したり吸収したりすることもあるかもしれない。

 それなのに飛び級で入団したからと嫉妬して関係を築かないような人は心も狭いし、成長するためのあるべき姿を見失っているといえる。

「サシャも気にしすぎるなよ。最悪三人でもお前らとなら問題ないだろ」

「んー、まあそうだね」

 イースラもクラインも余裕の態度なものだからサシャもちょっと落ち着いた。
 そうしている間になんとなくグループも出来上がっている。

 あとはイースラたちのように他に声をかけもせずかけられていないで距離をとって見ている人か、どこにも相手にされなかったような人しかいない。
 イースラたちは疎まれているし三人と仲間に引き入れるのには数も多い。

 だから近づいてくる人もいなかった。

「あ、あの……」

「なんですか?」

 あぶれたらどうするんだろうなと思っていたらイースラたちに声をかけてくる人がいた。

「組む人がいないなら……僕たちと組まない?」

 声をかけてきたのは男女のペアだった。
 気弱そうな男子と明るそうな女子といった真逆の性格をしていそうな二人組である。

「そっちは三人、こっちは二人。ちょうどいいでしょ?」

「ええと……」

「ああ、ちゃんと自己紹介したことなかったね。僕はムジオ」

「私はコルティーよ」

「僕たち二人とも四級で……あっ、そうなると君たちの方が階級が上になるね。ちゃんと敬語使わなきゃ……」

「別にいいですよ。今はまだ五級や四級と変わりないですから」

 ムジオもコルティーも兵士の方で四級の仮団員であった。
 入団する前からの知り合いの二人は今回も組んで動くつもり他の人を探していた。
 
 そこでイースラたちのことが目に止まった。
 ちょうど三人。

 しかもムジオもコルティーもイースラたちに嫉妬心は抱いておらず、三級に合格する実力の持ち主であるなら今回の訓練も楽に進むかもしれないと考えた。
 コルティーに背中を押されてムジオはイースラに声をかけたのである。

「じゃあイースラ、クライン、サシャ、ね」

「コルティー……」

「相手がいいって言ってるんだから」

 敬語じゃなくてもいいというイースラの言葉を受けてコルティーはにっこりと笑った。
 見た目通りのサッパリさがある人だなとイースラは思った。

「じゃあ組みましょうか。どうせ他に声をかけてくる人もいなさそうですし」

「そっちも気を遣った話し方じゃなくてもいいよ」

 ムジオとコルティーはイースラたちより年上である。
 だからイースラは丁寧な話し方をしていたのだけどコルティーもそんなにかしこまる必要はないと思っていた。

 そもそもギルドの中でイースラたちは最年少である。
 イースラたちの年齢で入団したのも異例中の異例の出来事だったのだ。

 立場が上のイースラたちに敬語を使わないのにイースラたちが敬語なのもまたおかしい。
 だから互いに砕けて話すことにした。