「落ち込むことはないよ。二物持ち合わせる人間の方が少ないんだ。無いものを羨むよりも自分の持っているものに目を向けなさい」

「は、はい……」

 不満げなクラインはクォンシーに優しくさとされる。
 オーラを扱えるだけ十分すごいのだから落ち込むことはないぞとイースラは思う。

「最後は君だね」

 またしても最後はイースラである。
 ムベアゾはひっそりとイースラにも魔法の才能がなければいいのにと思っていた。

「ほほぅ……」

 イースラが水晶に触れた。
 その瞬間サシャにも負けないぐらいの光が水晶から放たれた。

「光属性……珍しい適性を持っているね。少し青もあるということは水属性にも適性がありそうだ」

 水晶の中には白い光が満ちている。
 しかしただ真っ白なわけではなく白い中に青い筋が流れるように見えていた。

「魔法の才能もあり。四級合格」

「うわっ、マジかよ……」

「魔法でも二人が合格?」

 もはや驚きすら小さい。
 イースラたちが規格外すぎて周りのギルド員たちも今見ているものが現実なのか怪しく思えてくるようだった。

「その顔……この子も三級かい?」

「上級合格です」

「おやおや、上級かい?」

 クォンシーが驚いた顔をした。
 ムベアゾがこの場にいるということは少なくとも入団テストを見ていたはずである。

 決して手を抜くことのないムベアゾが上級と認めることはかなり例外中の例外と言ってよかった。
 クォンシーは改めてイースラのことを見る。

 年の割に落ち着いた目をしている少年はクォンシーの目をまっすぐに見返して微笑んだ。
 どんな才能を秘めているかは分からないが、大物になるという確かな予感がクォンシーの中に芽生えていた。

「ともあれ団長と副団長に報告して正式に入団を承認してもらった方がいいね」

 イースラたちを逃してはならない。
 クォンシーはそう考えた。

「そうしよう。ハルメード、三人にうちのことを説明してやれ」

「はっ、分かりました」

 ムベアゾとクォンシーは二人でどこかに行ってしまった。
 イースラたちは机が並べられている部屋に連れてこられた。

「君たちは師団長から入団の合格をもらった。だから何事もなければこのまま我々のギルドに入団することになるだろう。元々うちのギルドは傭兵団だった。そのために他とは少し違うシステムがあるから説明する」

 ハルメードは壁の一面にかけられている黒い板に白い石で図を描き始めた。

「うちのギルドは階級に分かれている。一番下が五級で、そこから四級、三級、二級、一級と上がってその上が上級。さらに小隊長補佐、小隊長、大隊長補佐、大隊長と上がって師団長、副団長、団長となっている」

 ハルメードが図を描きながら説明してくれるので分かりやすい。

「五級と四級は仮入団扱いで三級からが正式入団だ。君たちは剣の方で三級だからもう正式入団だね」

 周りがざわついていたのにもこうしたところが理由となっている。
 いきなり現れた子供たちが仮入団を飛ばして正式に入団する三級で合格したのだから当然驚くのも無理はないのだ。

「そして内部も二つに分かれている。剣……兵士と魔法使いでね。イースラ君とサシャ君は魔法でも四級合格しているね。両方合格したらどうなるのかは……ちょっと分からない。えーとあとは……」

 三級からはちゃんとした給料がもらえるとか上級以上になれば個人で部屋がもらえるとか細々としたことの説明をハルメードはしてくれた。
 クラインは理解しているのか怪しいところであるが細かく理解せずとも大きな問題はない。

「僕は小隊長だ。困ったことがあったら僕に相談してくれていい。他に何か言うことはあったかな……」

「ハルメード、ご苦労だったな」

「師団長」

 ムベアゾがいつの間にか部屋の中に入ってきていた。
 決して存在感がないような人ではないのにイースラも入ってきたことに気づかなかった。

「説明は終わったか?」

「一通り説明いたしました」

「ではこの子たちを連れていく。団長がお呼びだ」

 今度はムベアゾに連れられてギルドの中を移動する。
 上の階の一番奥の部屋をムベアゾがノックする。

「入れ」

「失礼します」

 部屋の中にいたのは大男であった。
 ムベアゾも身長が高い方だが、それよりもさらに大きい。

 鼻を通り両眼の下を走る大きな傷があり真っ白な髪をしていて獣のような荒々しい魔力を感じさせた。
 クラインとサシャは魔力に当てられて無意識に一歩下がるがイースラは負けじと大男の顔をまっすぐに見つめる。

 呼吸が苦しくなるような魔力だが、イースラは体にオーラをまとわせて対抗する。

「ふ……ふはははっ! 良い気概を持っている! お前が上級にしたのも頷けるな!」

 全く引かないイースラを見て大男が笑う。
 手を伸ばしイースラの頭を鷲掴みにするようにしてワシャワシャと撫でる。

 いつの間にか押しつぶすような魔力は感じられなくなっていた。

「俺はグレイゾン・ゲウィル。このゲウィル傭兵団の団長だ。少し下が騒がしいと思っていたが……面白いことになっていたようだな」

 グレイゾンはソファーにどかりと座った。
 二人がけのソファーであるがグレイゾン一人が座ればいっぱいになっている。