「んで、どこ行くんだ?」

 餞別としていくらかお金も貰った。
 活力でもつけようと食事を取りながら今後について話す。

 子供だけでの来店でお店の人も少し怪訝そうな顔をしていたけれど、面倒なのでいくらか先払いしてやるとニコニコとして料理を出してくれた。
 こういう時はお金を出すに限る。

 イースラの中で計画はありそうだけどクラインとサシャはまだ何も聞いていない。
 信じてついていくつもりだけどそろそろ教えてほしいものだと二人は思った。

「そうだな。とりあえず新しいギルドに入ろうと思う」

 イースラは自由に活動することも考えた。
 しかし子供三人で自由にするのは難しい。

 できないことはないだろうが基盤が整うまで時間がかかる。
 ここはどこかのギルドに身を寄せるのが正しいだろう。

 ギルドに入れば行動に制限は受けるがその分恩恵も大きい。
 オーラユーザーの子供は貴重なので保護と恩恵をギルドから受けて経験を積むのが今のところ強くなるのに一番いい方法である。

「どこにいくのかは考えてるの?」

「ああ、今のところは……」

「なに?」

 イースラはサシャのことを見た。

「第三候補ぐらいまで考えてる」

 もっと遠く足を伸ばせるのならもっと候補もあるのだけど今はこの町で活動することを念頭にイースラも考えていた。
 基本的には第一候補で行くつもりだけど万が一を考えて第三候補まで絞り出した。

 この時期の記憶はまだまだスダッティランギルドでくすぶっていたものなのであまり役には立ちそうにない。

「とりま、飯食ったら早速行こうか。上手くいけば今日から家の心配はしなくていい」

「もう一皿……食べてもいい?」

「好きにしろ」

「えへへ、ありがとう、イースラ」

「クラインは?」

「んじゃ俺も」

 ーーーーー

「ゲウィル傭兵団……?」

「おっ、クラインも読めるようになってきたじゃないか」

 冒険者として活躍するなら読み書きや数字はどうしても必要になる。
 学がないなんて言われるがそこらの一般人よりも冒険者の方が文字を書けたりする。

 契約に必要だったり報酬を誤魔化されないようにするためには多少の知識も必要なのである。
 イースラが教えてあげるとサシャはあっという間に文字数字をある程度マスターしたが、問題はクラインの方だった。

 ついでに文字の覚え方なんて配信しながらクラインに根気強く教えてやっていたらそれなりに読めるようにはなってきた。
 数字はもうちょっと時間が必要そうだ。

 文字の覚え方配信は視聴者の数こそ少ないものの覚えやすいと好評だった。
 貴族が子供に見せているのか意外とパトロンもあったりする。

 家庭教師に欲しいとか別のものもやってほしいとか要望もあるぐらいであった。
 そのうち数字編もやろうと思っている。

「傭兵団って……なに?」

 サシャは首を傾げる。

「何って言われると難しいけど人に雇われて仕事をする人たちかな。冒険者も人と戦ったりするけれど傭兵の方が戦争に参加したりと人と戦うことが多いんだ」

「……私これから傭兵になるの?」

「ここは傭兵団を名乗ってるけど冒険者ギルドだよ。まあ……元傭兵団だったってだけ」

「ふーん……」

 ギルドの名前は自由である。
 ゲウィル傭兵団は元々傭兵団であったのだが、今は冒険者のギルドとして活動している。

「とりあえず、ここが第一候補なのか?」

「そうだ。ここはな……」

「ん? 何かあるの?」

「いや……ひとまず訪ねてみよう」

 イースラは言葉を続けず微笑むとゲウィル傭兵団のギルドハウスに入る。
 スダッティランギルドとは比べ物にならない大きな建物の一階は冒険者ギルドのように受付があった。

「あら、子供がどうかしたのかしら?」

 イースラたちが入ると暇そうにしていた受付のお姉さんが視線を向ける。
 冒険者のギルドも子供の来るような場所ではないが傭兵団なんて掲げられた建物は余計に子供が寄りつかない。

 迷子だろうかと受付のお姉さんは柔らかい笑みを浮かべる。

「入団したくてきました」

「入団? それがどういうことか分かってるのかしら?」

「もちろんです。とりあえず……ルーダイ・ノーリアスを監督官としてお願いします」

「…………意味が分かっているのか分かっていないのか分からないわね」

 受付のお姉さんは目を細めた。
 確かに入団するということについて理解しているような言葉ではあった。

 しかし口にした名前を聞いて本当に理解してるのか疑わしく思えた。

「まあいいわ。自分の言葉に責任は持ちなさいよ、坊や」

 受付のお姉さんはため息をつくと席を立ち上がった。

「なななな、綺麗なお姉さんだな!」

「まあそうだな」

「胸がドキドキする……これが愛か」

「いや、違うだろ」

 クラインは少し興奮したようにイースラに耳打ちしてきた。
 そう言われてみれば受付のお姉さんは確かに美人だった。
 
 親友の好みというものをこれまで知らなかったけれど、年上の感じが好きなのかと今になって初めて知ることになった。

「私を呼んでるガキがいるって?」

 待っていると大柄の女性がギルドハウスの上から降りてきた。
 左目に眼帯をつけて毛量の多い栗毛の女性の袖から覗く腕は筋肉で太い。