ボスケイブアントを倒して攻略したダンジョンは消えてしまった。
 ダンジョンを攻略したということでスダッティランギルドは賞賛されることになったのだがギルドにおける雰囲気は非常に重たかった。

 理由はデムソが片腕を失ったことにあった。
 仮に治療をできる人が同行していたら、あるいは高位の神官や治療魔法を使える人が町にいたならデムソの腕をくっつけられたかもしれない。

 しかしスダッティランギルドに治癒魔法を使える人はいない。
 ギルドがあるのも微妙な田舎町なので高位の神官も治癒魔法を使える人もいなかった。

 結果としてデムソは片腕を失ったままとなってしまった。
 一命は取り留めたものの腕はつなげることができなかったのだ。
 
 冒険者ではない一般の人だって片腕を失うことの意味は大きい。
 実力が高くもないデムソなら致命的な状態になってしまったと言えるだろう。
 
 ダンジョンの再構築に巻き込まれるなど突発的な事故、災害のようなものである。
 いくら気をつけていたとしても防ぎようのない出来事なのだ。
 
 嫌ならダンジョンに入らないより他にどうしようない。
 しかしそれでも大事な仲間が大怪我をしたことに変わりはない。

 さらに戦いの途中で血を吐いたバルデダルはダンジョンを倒れた。
 今は復活しているがかなり体調が悪そうだった。

「空気……重たいね」

 ギルドハウスのリビングスペースに集まったみんなの空気は非常に重たかった。
 ベロンは今回のことに責任を感じている。

 怪我をしたデムソや倒れたバルデダルは何を言ったらいいの分からず、スダーヌもなんと声をかけたらいいのか迷ったまま気まずそうにしている。
 イースラたちに守られたポムは言うまでもなく沈黙を貫いている。

 発言する権利がないことを心得ているのはいいことである。
 ベロンが悩んでいるのはデムソに怪我をさせたことやバルデダルに無理をさせたことだけではない。

 デムソはもう戦えない。
 盾を持ってタンクに徹するなら可能性はあるが冒険者として活動することは難しいだろう。

 バルデダルも体の調子が良くない。
 いつ完全に回復するのかも分からないのだ。

 つまり五人いたスダッティランギルドとして今動けるのは三人になってしまったのである。
 イースラたちがオーラを扱えるという事実はさておき今後の活動をどうするのか岐路に立たされている。

「もうやめませんか?」

「……イースラ?」

「ギルドごっこはやめにしませんか?」

 少し早いかもしれない。
 そう思いつつもいい機会だと思った。

「みんな分かってるでしょ? ここがみんなの限界だって。もうポイントで能力を買うことも難しいんですよね?」

 イースラたちを引き込んだ目的はもらえるパトロンを増やしてポイントをより多く得ることだった。
 ならばどうしてポイントが欲しかったか。

 お金のためではない。
 ベロンたちはポイントで能力値を買おうとしていたのである。

 力、素早さ、体力、器用さ、魔力、それに幸運という能力は元々持っているものに加えてポイントで買うことができる。
 しかしこうした能力は買うにつれて必要なポイントが高くなり、あっという間に手が届かないものとなる。

 ベロンたちは正直能力が高くなかった。
 高望みしなければ生きていけるがそこから伸びる可能性が低いのだ。

 だから少しでもとポイントで能力値を買った。
 幾らか能力値を買えば少し強くなったという実感もある。

 すると人間欲が出る。
 もっと強くなりたい。

 ポイントがあれば強くなって上を目指せるとしがみつき始めるのだ。
 だからイースラたちを入れてパトロンを増やそうとしたのである。

 だがベロンたちの能力値は簡単には買えないほど高くなっていた。
 もう頭打ちだといっていい。

 ここらがベロンたちの限界なのである。

「デムソさんは片腕を失いました。バルデダルさんは魔力障害ですね? ベロンさんもスダーヌさんももう限界まで能力値を買っているはずです」

「……でもお前たちがいるだろ? オーラを使える奴が三人もいるなら……」

「俺たちが強くなったら皆さんはどうするつもりですか?」

「それは……」

 イースラの言葉にベロンは返事を詰まらせる。
 確かにイースラたち三人がいればギルドは続けていけるだろう。

 しかしオーラユーザーであるイースラたちが真面目に鍛錬して強くなればベロンには手の届かない存在になる可能性も高い。
 いつしかベロンたちが足手纏いになる可能性も否定できないのだ。

「ベロンさんはなんでギルドを作ったんですか?」

「それは……自分でもやれると証明したくて……」

「もう十分じゃないですか?」

「ここでやめたらデムソはどうなる? ギルドがなくなったら……」

「そのまま連れて行ったらどうですか?」

「なに?」

「家に帰って頭下げるんです。片腕でも仕事はできます。むしろ冒険者でやってきたという実績があるなら喜んで受け入れてもらえるでしょう」

「…………お前、どこまで知っている?」

 サシャやクラインはイースラが何を言っているのか分からなかった。
 しかしベロンにはイースラが何を言いたいのか理解していた。